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百六十九話 追憶と後悔と… ページ24

「私も……
 ずっとお会いしたかったです。
 ───杏寿郎さん」


旧知の友へ向けるような無邪気な笑み。

それに衝撃を受けた杏寿郎は
元より大きな瞳をさらに大きく見開いて
口すらも開けたまま閉じられない。


(……違う)


言葉では言い表せぬ多幸感と高揚。

しかし、同時に目の前の事象に
大きな違和感を覚えてどこか冷静となる。


この黒曜石のような瞳が己を映すときは
決まって涙を纏って
艶やかな濡れ羽色となるはずなのだ。



* * *



───ぐ…っ!


一方、現実の世では
己に向けられた“何らか”の危機を感じ取り
杏寿郎は本能で身体を動かした。

右手に何者かの脈を感じながら
これ以上は動けぬと、膠着状態になる。


しかし、その意識はまた別の所へと飛ぶ。



* * *



ぎゅっと固く目を閉じていると気付くと
そのまま目を開けるのが億劫となった。

全身を疲労感が襲い、身体が恐ろしく熱い。


(っ…柱合会議はどうした……あの子は…)


目蓋は開かず、身体は動かずとも
朦朧とする意識の中で
杏寿郎はただ一人を探し求める。

すると、


「煉獄さん……早く元気になってください」


鈴を鳴らしたような
あどけない声音が耳をくすぐると同時に
冷たくて心地よい感触がした。

少し遅れてから己の額に
固く絞られた濡れ手拭いが置かれたと気付く。


「Aさん…あにうえもぼくも
 “れんごくさん”ですよ?」


今よりもずっと幼げな声に聞こえるが
傍らには弟の千寿郎までいるようだ。

何が起きてるのか理解が追い付かず
横たわっている場合ではないと思うのに
どうにも身動きが取れなかった。


「そ、そうだね……千ちゃん。
 早く元気になってね──杏寿郎さん」


───!!


この言葉が引き金となり
彼の遠い記憶の隅をつついた。


実際の記憶では幼い杏寿郎は
熱に浮かされて意識が朦朧とする中で
母と間違えて少女に甘えてしまった。

しばらく布団に籠城してしまうほどに
消し去りたい恥ずべき記憶。


(……もし、やり直せるならば)


金縛りを解くように杏寿郎は自らを鼓舞する。

そして、まるで宝物のように
己の頭を撫で続ける小さな手を握りしめた。


「っ……」


少女の口から驚きの吐息がもれるのを感じる。
しかし、どうしてもこの目で確かめたい。


「……ありがとう」


けして逃さぬよう、その手を掴んだまま
ゆっくりと重たい目蓋を持ち上げた。



**********


続く

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さつまいも 煉獄さんに貢ぎましょう!!


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亜紀野ユキ(プロフ) - 桜井直(なお)さん» ありがとうございます(´ω`*)コツコツ頑張ります (2023年1月29日 12時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
桜井直(なお)(プロフ) - 亜紀野ユキさん» ヒロイン、可愛い。。作者さんは天才!こんないいお話を!続編待ってます! (2023年1月29日 10時) (レス) @page50 id: f84b7d123d (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - 綺羅さん» わっしょいなご祝儀ですね(*´∀`)占いコーナーまでご閲覧嬉しいです (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - kanayamamoto112さん» こんな子ならストーカー気質でも推せますね(*´ω`*)ほっこり (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
綺羅(プロフ) - 尊いッ!!見ていて癒やされます、御馳走様です(笑)ご祝儀はサツマイモでも…(笑)そして占いのおはぎに笑いました(笑)一か八かでずんだにして持って行ってみます!← (2023年1月18日 21時) (レス) id: fcc9d08bef (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:亜紀野ユキ | 作成日時:2022年9月7日 17時

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