5話 母 ページ7
母「もう、Aったら！月と一緒に行動してっていつも言ってるでしょ！？何かあったらどうするの！」
「は〜い、明日からまた二人で居るよ、だから心配しないで」
粧裕「なんかね、お姉ちゃん反抗期きたんだって。お兄ちゃんと居たくないらしいよ〜？」
「…粧裕、お姉ちゃん反抗期きてないから。
月と居たくないとか一言も言ってないでしょーが」
己を叱る母と、茶々をいれてくる妹の粧裕に、Aは消沈する。
粧裕はともかく、母の言っていることは正しい。だから、反論のしようもAにはなかった。
母「月も、どうしてAを置いて帰っちゃうの！？」
月「ごめんね母さん。だけど、Aが先に帰ってほしそうだったからさ」
母「もう…！私はAが心配で心配で…」
月「あはは、母さんってば、本当に過保護すぎるよ〜」
Aの事情を知らない月と粧裕は、呑気に笑っている。母の言葉を重く受け止めているのは、この場でAただ一人だけだ。
Aは分かっている。叱ってくれるのは私の為だと。
お母さんは、いつも私を想ってくれているのだから。
…普通なら、己の子供がΩだと知れば、途端に愛想を尽かす親は珍しくないのだ。
それだけ、Ωは社会の中でも最低層であり、弱い立場にいる。
だが、Aの母、夜神幸子は違う。
あの日、AがΩだと知っても、大丈夫だと優しく抱きしめてくれたのだ。
それどころか、月にも、妹の粧裕にさえ、Ωだということを内緒にすると告げた。
二人もAに気を使うだろうし、なによりプライドの高いAは、自分がΩだと知られるのが嫌だった。それがたとえ、家族でも。
幸子は、Aの性格を誰よりも理解していたのだった。
「ごめんねお母さん、もう一人で行動しないから」
母「A…」
心配する母を安心させるため、Aは母に微笑んだ。
お母さんが支えてくれたから、私はここまで来れた。
だから私は、お母さんの期待に答えるためなら、なんだってするから。
『次のニュースです。Ωの女性に性的暴行を加えたとして、3人の男が逮捕されました。名前は__』
母「まぁ、なんて酷い…」
月「力のない女性を襲うなんて、猿のすることだね」
粧裕「お兄ちゃん口わるっ！」
母や月、粧裕はテレビのニュースに釘付けになる。
だから、Aがニュースに映る男3人を恨めしそうに見ているのを、誰も気付けるはずはなかった。
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作者名：あっきー | 作成日時：2019年5月1日 12時
