28話 テニス ページ30
入学式の件から、一週間。
大学の授業が終わると、Aはそのまま家には帰らず、大学の図書館に寄るのがお決まりになった。
αについて詳しく書かれた本を手に取り、Aは複雑な心境を抱く。
…あの日以来、Lと名乗った男とは、会っていない。
月は仲良くしているみたいだった。明らかに偽名である流河という名を呼び、気が合うとか物知りだとか、そんな事ばかり言っている。
それがAは非常に気に食わなくて、最近は月と一緒に行動を共にするのも、少なくなっていた。
相変わらず、母には怒られるけれど。
(あ、そういえば…)
二日前、だったか?月が"流河がAに会いたがってるぞ?"なんて笑って言ってきたのは。
…冗談じゃない。アイツはαだ。
一緒にいて襲われたら嫌だし、警察関係の奴に間違いないんだから、出来る限り関わりたくもない。
奴と会うのは、損する事のほうが大きいのだから。
「…あ、これ面白そう」
本棚の前に立ち、Aはキリストの本を、手に取る。
死神のリュークに出会ってから、神話などの話にも興味を持つようになった。
『お…__すげぇ!』
「…ん?」
ふと、外で大勢の人が叫んでいる事に、Aは気が付いた。癪に障るほどではないが、外が非常に騒がしい。
ソッと窓から顔を出して外の様子を伺えば、図書館の真下にあるテニスコートで、戦っている男性二人の姿が見えた。どうやら、その周りの人達の声援が、ここまで届いてきていたらしい。
…この騒ぎは、あの二人が原因が。
と、いうか
「月と、偽L…ッ!?」
信じられない、とAは目を擦ったが、どうやら見間違いではないようだ。
テニスで、月とあの男が戦っている。しかも、ほぼ対等に。
月は中学の時に、テニスで全国大会制覇を2度も成し遂げているほどの腕前なのだが、そんな月を相手に、あそこまで動けるとは…
(…やはり、普通ではないな、あの男)
試合が終わるまで、Aは二人を見続けた。
『ゲームセット!ウォン・バイ夜神ィ!』
結局、その試合は月が勝った。
「…ま、月が勝つのは当然だけどね」
私の双子だもの。
Aはフッと笑い、月とハイタッチをする男を、気に食わない目付きで眺める。
相変わらず、あの男は無表情だ。
あの男は悔しいことがあっても、何一つ顔色を変えたりしないのだろうか。
そう、Aが思った時だ。
「あ」
L「!」
黒い瞳と、目があった。
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作者名:あっきー | 作成日時:2019年5月1日 12時