２人の恋２

東京の夜８ ページ22

【結弦】

凄まじく綺麗な女だと思った。

白い素肌に淡いブルーのレースが映える。

緩くまとめられた髪も、印象的な大きな瞳も、スッとした鼻も、いつも俺の名前を呼ぶつややかな唇も。

遠慮がちに佇(たたず)むその姿をパウダールームの柔らかい照明が照らしている。

息を呑むくらいに綺麗で眩しかった。

さっきまでの俺のやましい妄想なんて、それこそ吹き飛ぶほどに。

身動きを忘れてしばらく彼女に見とれていた。

「う…。結弦くんが眩しすぎて動けない…」

それはこっちのセリフだ。

「３分すれば平気だからそっとしといて。スーツ姿に目がくらんでるだけだから！！」

そんな綺麗な姿でまた変なこと言ってる…。カップラーメンかよ。

俺を見つめて困った顔で頼りなさげに立っている彼女。

そんな姿見せられたら、もうこうするしかねぇだろ。

彼女の元へ行って、跪いて彼女を一気に抱き上げる。

俗にお姫様抱っこと呼ばれるそれを、自分が迷わずしたことに驚いた。

やってしまった後で気付く。

これは…想像以上に恥ずい。


「結弦くん！？」
そんな驚いた声出すな。驚いてんのは俺の方だ。


「何っ！？どうしたの？」
お前のことが好きすぎてこんなことになってんだよ。わかれよ。


「何って動けないって言うから。お姫様抱っこだけど。嫌？」
こんなこと何でもないってフリするしかねぇだろ。


「だってだって！私、重いよ！」
「嫌なら今すぐ落とすぞ」
嫌われたって、絶対に落とすもんか。
もう頼むから大人しく抱かれててくれ。


Aさんが目を潤ませたほんのり赤い顔をして俺を見上げる。

至近距離で見つめ合う。

そんな瞳(め)をするなよ。

まだ形に出来ないはずの想いを、口に出しそうになる。

それは俺にはまだ遠い目標だから。


「結弦くんって、こんなことするんだ…」
Aさん以外にこんなことするわけねぇだろ。


彼女は気付いてんのかな。

自分がどんなに俺にとって特別かってことを。

「この状況でこれくらいやんなきゃダメでしょ」
それを俺が何でもないことみたいに隠してしまうってことを。

２人でソファーに座って眺めているこの宝石みたいな夜景よりも、隣の彼女のほうが何百倍も眩しいと思っていることを。

そして今、すぐ隣で俺が彼女に見惚れていることを。

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