２人の恋２

東京の夜５ ページ19

【結弦】

ホテルの部屋のクローゼットを開けた時、それが目に入った。

Aさんのドレス。

薄い青で、胸の上から肩や腕の部分がレースで透けている。
ウエストから下は女らしい、フワフワしたスカート。

このシチュエーションでそんなものを見てしまって平静を保てなくなった。

今日、Aさんはこれを着てたのか。

これを着て他の男と仲良く話す彼女の姿を想像した。

これを着た彼女を男達がどんな目で見るのかってことも。

俺はこれを着た彼女を見てないし、見られない。


「結弦くん、さっきからドレスドレスって…。本当はあれ着た私が見たいの！？」

「だったら何？着て欲しいって言ったら着てくれんのかよ！？」


たかが服のことくらいでこんなにイラついた声を出す自分に驚いた。

変態と言われようとなんだろうと、彼女が着飾ったところなんて見たいに決まってる。

他の男が見たなら尚更だ。

しかも俺の願望はそれだけじゃ終わるわけなくて。

初めて身体を重ねた夜から、正直次を待ちわびてた俺にとって、こんなドレスを見せられることは、火に油を注がれるようなものだった。

ぶっちゃけこれを着せてその先をしてるところまで想像した。

Aさんのことを大事に想ってて、大事な思い出に残る夜にしたいのに、実際俺が考えてることはゲスい最低なことで。

俺がそんなこと考えてるなんて全く疑ってないAさんの隣にいられなくて、ベッドまで行って彼女に背を向けた。

Aさんは何やらいろんなことを言って俺を励まそうとしていた。

その励まし全てがトンチンカンで余計に脱力せざるを得ない…。

大事にしたい、メチャクチャにしたい、同時に湧く感情に混乱する。

そう思ってじっとしていると、Aさんが俺を後ろからぎゅっと抱きしめた。

理性が崩壊しそうな時にまたこの人は何をする…と思ったけど。

やっぱり彼女は底抜けに優しいのだ。


「ごめんね。そういうの、男の人なら普通にあると思うし、どんな結弦くんも好きだから。私だって女なのに、結弦くんのスーツ姿とかでほんとにクラクラしたりするし…」


彼女の想定する“そういうの”なんて俺の最低な想像より全然ぬるい。

でもその言葉で全てを肯定してもらえた気がした。

俺の汚いところも。

ずっと心にあった俺の弱い部分も彼女なら受け止めてくれる気がして。

俺が今夜彼女にしたいと思うことも彼女なら許してくれる気がして。

その願望を彼女の耳元で囁いた。

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