２人の恋２

会いに行く ページ13

【結弦】

その日の仕事を終えると夜の７時半だった。

思ってたよりは早く終わってホッとする。

今日の仕事は雑誌の取材が２件と、対談１件、化粧品会社の写真と動画の撮りをまとめて何本分か。

化粧品会社の送りを断り、呼んでもらったタクシーに乗る。

送りを断ることで何か勘付かれやしないかとヒヤヒヤするけど、そこは協力関係にある会社だから突っ込まれない。

行き先のホテルを告げたけど、運転手さんは俺には気付いていないみたいでホッとする。


引退してから、取材でも対談でも質問がプライベート寄りになってきていることには正直抵抗を感じていた。

もう俺に求められているのはスケートじゃないと言われているようだ。

でも俺はいつだって根っからのスケーターでタレントじゃない。

そのことを忘れられたくない。

まぁスケートを続けるには費用もかかるし、生活もあるし、求められる仕事をしっかりこなして稼がなきゃなんないんだけど。

(金を使いたいと思える相手もできたし…)

Aさんは使わしてくんないけど。

今回のデートも俺が全部払う気だったのに、Aさんは許してくれなかった。

“結弦くんが頑張って稼いだお金だから”

“私も働いてるんだから２人で払おう”

そう彼女は言った。

そのつもりでホテルも払える範囲のところを選んだんだ、と。

甘えてこなくて可愛げがないと思う男もいるだろうけど、真っ当な感覚を持っている彼女に俺はホッとするのだ。

まぁそれは、今は多少の資産があっても、俺が元々普通の家庭で育ってるからだけど。

彼女の気の抜けたようなホンワカした笑顔を思い浮かべる。

…早く会いたい。

距離はそう遠くないのに渋滞しててなかなか進まないのがもどかしかった。



着いたホテルは新しくてキレイだった。

グレーを基調とした大人っぽい雰囲気。

いろんなホテルに泊まり慣れている俺の中でもかなり好印象だ。

Aさんに着いたとメッセージするとすぐ既読になる。

前もって送ってもらった部屋番号を確認して、Aさんの待つ部屋へ向かった。

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