２人の距離【憧れの先】4

間違ってます、それ ページ9

坂本くんはアッサリとウチに現れた。

本当に何もなかったかのように。
きれいサッパリ忘れるって言ってたけど、こうも見事に実行されると調子が狂う。
でもきっとこんな私のことを分かった上でそうしてくれているのだ。

何も知らない美華さんの存在がありがたかった。

「ねえちょっと、坂本くんに聞きたいことがあるんだけど…」

「今度は一体なんですか？」

どうでもいい話な予感がすごくする。
聞きたいけど聞きたくない、でも逃すには惜しい。
プリンを持って、そっとリビングに戻る。

「坂本くん、今までの人生でお尻で物を挟んだことってある？」

「いや、今んとこないっスね」

「そうよねぇ。ないわよねぇ。私もないわぁ」

いや、だから何の話ですか？
普通に返してる坂本くんもホラーなんだけど。

「ケツに物を挟むって、一体どこからそんな話が来たんです？」

気になっても聞きたくない。
そこに切り込んでいく坂本くんは勇者にしか見えない。

「いえね、今日お客様のところへ行ったのよ。そうしたらお客様がね、“今の若い人はケツに物が挟まったようなのが多いけど、あんたはいいねえ”って言うのよ。ニコニコしてたから、褒められたのはわかったけど、ケツに物を挟む若者っているのかしらと思って」

「へー」

坂本くんの棒読みがこわい。

「身近な若者っていえば坂本くんでしょ？知ってるかもと思って、一か八か聞いてみたわけよ」

「それ、貴重な一か八かを使うタイミング、間違ってます」

「ガーン！間違えた！？」

「まぁいーですけど。それって多分、“奥歯に物が挟まったような”って言いたくて間違ったんじゃないですか？田口さん、ハキハキ物を言うから、他の人より分かりやすくていいって意味だと思いますけど」

美華さんは真顔でコクコク頷いている。
真面目になる場面も間違ってるよ…。

「そうかも！！きっとそうだわ！スッキリしたぁ、さすが坂本くん！でもどうしてケツなんて言っちゃったのかしらね、お客様は」

「さぁ…、自分のケツになんか違和感でもあるんじゃないですか」

「お尻に何かが挟まるって…便秘かしら？」

「さぁ、どうでしょうか」

これは完全に流すモードだ。
終わらせたくてしょうがないって感じ。

「あれって辛いわよね。薬、勧めた方がほうがいいかしら？ボラギノールとか」

「ボラギノールは痔です」


ピシャリと突っ込んで終了させた。

え？そうだっけ？と言う美華さんをひととおり冷めた目で眺めた後、ふっと笑ってる。

凍る表情→←来るも来ないも

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