響く声 ページ17
「ちゃんと、さよならは言ったの？」
「え…」
「まさか何も言わずに消えるつもりなの？」
その言葉に胸がぎゅっと掴まれる。
「それは違うよ、ヒロくん」
「どうに違うの？」
「……さよならだけは、どうしても言えないんだよ」
やっとそう絞り出した私の肩をみかちゃんが包んでくれる。
「もう！そんなに責めなくたっていいじゃない。Aだってきっとずっと悩んで出した結論なんだし」
ヒロくんはひとつ溜息をつく。
「だけどさ、さっき美華さんが家を飛び出した時、Aちゃんはどんな気持ちだった？」
「……」
「大切な人が何も言わずに急にいなくなるって、どんな思いがした？」
とても恐かった。
このまま会えなくなるんじゃないかって。
息が止まるくらい苦しくなった。
どうして？って思った。
「理由を話して欲しいって思わなかった？力になりたいって思わなかった？その相手だってさ、同じように、それ以上にそう思ってると思わない？」
「うん…」
「Aちゃんが、その相手とは無理ってのはもうしょうがないよ。それはそれでいいとしてもさ、ちゃんと本当のことを話してやりなよ。好きでも、どうしてダメなのか、その理由をさ」
「……」
「もう終わりってのはAちゃんの中で決定なんでしょ？本当のことを話しても、黙って消えても、確かに結果的には同じ終わりだよ。でも同じ終わりなら、相手に優しい終わり方のほうが良くない？」
「本当は…、最後の最後で嫌われちゃうのがこわい。会社で噂されるくらい、だらしないんだって思われちゃうのがこわい。今までの思い出も、彼の態度も変わっちゃうのがこわい」
私の肩を包むみかちゃんの手に、きゅっと力が入る。
「今、話してくれたその気持ちごと、全部伝えればいいんじゃない？何も言えなくなるくらい、好きだったって言えばいいよ。そんなに想ってくれた相手のことを嫌いになんてならないと俺は思うけど」
隣を見上げると、みかちゃんが力強く頷く。
「私もちゃんと話した方がいいと思うな。彼もきっと待ってると思う。どんな答えであっても、Aの言葉を待ってるよ、きっと」
カップの中の紅茶の紅色がゆらゆら揺れる。
『本当の理由を聞かせて』
問い詰められているように感じていた言葉が
あの深くて優しい声になって私に届く。
その声は
私の心を溶かすかのように
いつまでも響いていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 86人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
らっき(プロフ) - 神威さん» そうだったのですね。ファンの方だと思い込んでこちらこそすみません！そして嬉しいです。作品の心配をして下さって。今すぐには無理そうですが、完結まで書きたい気持ちが強いです。気持ちの整理がついたらいつか。とりあえず神威さんが辛くなくて良かったです！笑 (8月5日 23時) (
レス) id: 4da1a124c4 (このIDを非表示/違反報告)
神威(プロフ) - の作品の心配を...それくらい読み応えがあって、そういう世界があるんじゃないかと(そしてそれが応援できる)思い込んでいた...と言いますか。。。なので更新通知を見た瞬間「あ...もう書けません通知かもしれない...つら...」と身勝手ながら思っておりました。。。 (8月5日 21時) (レス) id: aa58e06295 (このIDを非表示/違反報告)
神威(プロフ) - お返事ありがとうございます。実は申し上げにくいのですが、私は羽生さんのファンではなくて、らっきさんの作品の羽生さんが好きでして...もちろん凄いスケーターの方である事は知っていたのですが...なので報道を知った時も、リアル羽生さんの事というより、らっきさん (8月5日 21時) (レス) id: aa58e06295 (このIDを非表示/違反報告)
らっき(プロフ) - 神威さん» 神威さんのお気持ちは大丈夫でしょうか？ショックを受けられてませんか？何かあったら吐き出して行ってくださいね。結婚すると推しが変わってしまう心配を普通はするのに、羽生さんは何も変わらない、そう思わせてもらえるのはすごく幸せなことだと思っています。 (8月5日 20時) (レス) id: 4da1a124c4 (このIDを非表示/違反報告)
らっき(プロフ) - 神威さん» コメントありがとうございます。続きがありましたかね？最初に思い浮かべていただいたなんてなんだか嬉しいです。ダメージは受けてます。嬉しいし安心した気持ちはあるけどショックはあります。でも時間がかかっても書いてみたい気持ちが確かにあります。（続く） (8月5日 20時) (レス) id: 4da1a124c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：らっき | 作成日時：2023年3月22日 13時
