２人の距離【憧れの先】4

周りの勘 ページ14

『実は…、美華さんを探して親友のカフェまで来たんだけど、ちょっと私、フラフラになって倒れちゃって…』

『え？大丈夫ですか？今どこですか？まさか路上で！？』

『あ、ちがうちがう！カフェの中。親友が２人、ついててくれてるの。それにただの運動不足でフラっとしただけ…！』

『じゃあ、そこで休ませてもらえてるんですね？ちゃんと帰れますか？』

『大丈夫！親友が車で送ってくれるって。それにほんとにフラついただけだし』

『良かった…』

『だから私はそっちに行けないんだけど、坂本くんに美華さんのこと、お願いしていい？ちゃんと話を聞いて、美華さんが落ち着くまで側にいてあげて欲しいんだけど』

シン、と電話の奥が静かになる。
ゆっくりと、坂本くんが頷いたのが見えるみたいだった。

『わかりました。田口さんの扱いには慣れてますから』

『そっか。毎週２人でご飯食べてるんだもんね』

きっと私の知らない絆が、２人には芽生えてる。

『私のことは心配しないで。美華さんのことをよろしくね』

坂本くんがいれば美華さんは大丈夫。
そう確信して電話を切った。


「A、別に倒れてないじゃん」

みかちゃんが笑いながら私の顔を覗きこんだ。

「いいの！多分これで」

「その後輩くんと美華さんっていい感じなんだ？」

「うーん、どうかな。本人たちはまだなんとも」

「でも周りの勘って一番当たるんだよね」

「本人より周りの方がいろいろ見えてるってのはあるかも」

２人でうんうん頷き合っていると、目の前にケーキと紅茶が置かれる。

「これ、今日の余り。倒れたAちゃんには糖分いるでしょ？」

ヒロくんもニヤニヤしている。

「まぁほんとにさっきまで真っ青だったし、ちょっと休んでけば」

お言葉に甘えてそうさせてもらうことにした。

「あっ、やっぱり美味しい！幸せ！こんなお店ができて２人は天才！」

「そのケーキは外注だぞ」

「いーの！お料理も美味しいもん。好きな仕事が形に出来るってすごいよ」

「Aは仕事は？順調？」

みかちゃんのその言葉に思わず固まってしまった。

「順調…って言いたいけど、違うなぁ」

ははは、と苦笑いで答えた。

「大変そうだもんね、銀行って」

言ったらやっぱり心配させるだろうか、でも…。

「ねぇ、みかちゃん。噂って消えないね」

静まり返った店内が、さらにシン、としたような気がした。

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