２人の片想い

いざ銀行へ ページ5

【結弦】

いよいよ今日になってしまった。


お見合い相手とやらを「見に行く」日。


こちらだけが真相を知らされてて一方的に相手を「見に行く」なんて、失礼だから嫌だと再度両親に言ってみたけれど、「あちらの意向だから」「ただの口座開設だから」と言って全て軽くあしらわれてしまった。


日時も決められていたし、先方の知り合いである銀行の支店長まで絡んでいるというのだから、とりあえず行くしかない。


お見合いなら断ることが出来ても、ただの口座開設手続きと言われると断るのが難しくなるところがものすげえ巧妙だ、と思う。


行かないと言えば「故郷の銀行とは取引する気がありません」と言ってるようなもんだし。


やっぱり行くしかない。


とりあえず行って、やっぱりまだ恋愛や結婚は考えられないと逃げればいい。


そう自分に言い聞かせた。


フェアではないとは思うけど、断ったことがお嬢さん本人にはわからないという点だけはいいと思った。


こちらだってわざわざ見知らぬ女性を不快にさせたいわけじゃないし。


「でも俺がいきなり現れたらびびるだろうな・・」


とりあえず眼鏡とマスクをして、ちょっとゆとりのある服で行くことにした。
俺の身体の線は、男にしては珍しいから、いつもの服やジャージだと目立ってしまう。


普通にしているのが一番目立たない、というのは今までで学んだのであくまで普通にすることにして、俺はそのお見合い相手とやらがいる銀行へ向かった。





約束の、地元最大の銀行まで来ると、それは思ったよりだいぶ古めかしい小さな支店だった。
どこか昭和を連想させる。
昭和知らねーけど。


出迎えられると注目を浴びてしまうので普通に入店すると連絡したら、とりあえず入口に一番近い席の「坂本」という男性行員に声をかけるように言われたのでその通りにする。


坂本という男性行員に声をかけただけで、名乗ることなくスムーズに応接室に案内された。


ソファーに座って深呼吸をする。


うん、これは決してお見合いじゃないからな。


口座開設するだけ、口座開設するだけ。


自分に必死で言い聞かせる。


しばらくすると、コンコンとドアをノックする音がした。

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