２人の片想い

誘い ページ24

【結弦】

彼女の慌てっぷりといったら見ていられないほど面白かった。

誰もいないギャラリーに彼女が入っていったのを見て、俺も後を追った。

すぐに声をかけようとしたけど、彼女があまりにも俺の写真をじっと見ているのが嬉しくて、しばらくそのまま見ていた。

すると彼女が右手をスッと上げてそっと展示の俺に触れたのを見た。

その後どうするのかを知りたい気持ちで見ていたら、彼女がいきなり手を引っ込めて後ろを振り向いた。

その瞬間に俺と目が合った。

うっわ、面白いくらいうろたえてる。

俺の名前、ハブと間違えた時と同じくらいうろたえてる。

「あれ、関原さん。偶然だね。今日はどうしたの？」


何が偶然だよ。

自分に盛大なツッコミを入れながら、彼女との再会に胸を躍らせていた。



とりあえず人に見つかるとマズいので、トレーニングをしていたスタジオに彼女を誘った。

聞くと、今日の行事は自由参加で、彼女はたまたま当番で手伝いに来ただけらしい。

次の手伝いまでにはまだ時間があるという。

やっぱり今日会えたのは本当に運が良かったのだ。

とはいえ、自分がなぜこんなにも彼女に会いたかったのか、自分でもまだわからないのが正直なところだった。

まだ恋というには違う気がする。

俺はまだ彼女のことを知らない。

知らないからもっと知りたくて、仲良くなれそうだから仲良くなりたいのだと思う。

「滑ってるの見たけど、結構上手だね。やったことあるの？」


「はい。前に２回くらいですけど・・」


「えっ？２回にしては上手くない？」
普通にビックリした。あれ、３回目の滑りには見えないぞ。


「いえ。上手くないです！前に滑るだけで精一杯で」

身振り手振りで一生懸命話すのが、可愛い。


「羽生さんはあの氷の上で、４回転跳んだりしてるんですよね？ほんと、神業だなって思います」


「いや、小さい頃からやってるからね」


「そういう問題じゃないです！小さい頃からやってるだけで金メダル獲れるわけないし。すごいなー、ジャンプなんて近くで見たらすごい迫力なんだろうな」


目をキラキラさせて話している。


「練習で良ければ見る？」


自分でも思いがけず声をかけていた。

なんでこんなことを言い出しているのか、本当に自分でも意味不明だ。

「へっ？」


「俺、夜はここで練習してるけど、今度良かったら一緒に来る？」


だけどまた会いたいんだ、どうしても。

「・・・」

彼女は固まっていた。


その返事を俺は待つ。

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