２人の片想い

突然の提案 ページ1

【結弦】

気を抜いている時にこそ何かが起こるとはよく言ったものだと思う。




現役時代に充分過ぎる成績と４回転アクセル成功という記録を残して引退した俺がようやく落ち着いた３０歳の初夏。


自身のアイスショーや、海外からの招待、講演などの仕事にとりあえず区切りを付け、今後の活動方針の検討と休養を目的に仕事を少しセーブすることにした。


休養といってもスケート技術が落ちるとマズいので、夜は相変わらずリンク通いの日々だ。
それにかなり厳選してはいるが、仕事ももちろんしている。


そんなある日、相変わらず家でゲームをしていると、いつものように母から食事に呼ばれた。


よっこらしょと起き上がって部屋を出て食卓に座ると、両親がなにやら妙な雰囲気で揃って座っている。


なんだ？と思いながらも食事を始めた途端、母親が「ゆづ今、誰か付き合ってる人いる？」と聞いてきた。


ほんとにいきなり何なんだ？


「いないよ。引退してからめちゃくちゃ忙しかったの知ってんじゃん」


母のギョーザにぱくつく。
うん、コレコレ。いつもながらうまいわ。


「結婚とかどうするか考えてる？」


「は？何言ってんの」


ギョーザが詰まりそうになる。


年齢的に全く考えてないと言ったら嘘になるけど、相手もいないし、現実的に無理な気がした。
そりゃまあ、そのうちに出来たらいいなとは思っているけれど、俺の場合は難しい。


「だよねぇ。結婚となるといろいろ難しいしね。特にゆづの場合は」


ちなみにどんな相手がいいと思ってる？と聞かれたので、まあ常識的な人であんま前に出すぎない人がいいかな、とか適当に答える。


母が話すのと入れ替わりに父が言った。


「思うんだけど、結弦の相手には有名人より一般人の方がいいような気がするんだ。将来的に仙台で落ち着くんだったら、こっちの一般のお嬢さんがいいと俺は思う。いろいろ騒がれたくないだろ？それで、俺の知り合いのお嬢さんに会ってみたらどうかと思うんだけど、どうする？」


どうするもこうするも。


考えてもいない結婚のことをいきなり聞かれ、更に父親からよくわからない提案をされた俺は目が点になるしかなかった。

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