満月の夜に乾いたギターを２【完結】 (ページ20)

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｢大事なやつが生まれたこの日の記念に歌います
ここにいないと思うけどきっと聞いてると信じてます｣

イントロで語り出す声で

確信に変わって

驚いてしゃがむ

そこに

ほんの数m先に

大我さんがいることと

私の20歳の誕生日を覚えてたこと

今そこで私のために歌ってること

私はここにいるよって今すぐに立ち上がりたかったけど

足がすくんで立ち上がることは出来なくて

大我さん今日までどんな気持ちで過ごしてたの

大我さんは会いたいって思ってた？

わたしはこの出来事だけで

もうおなかいっぱいなぐらい嬉しくて悲しい

どんどん進んでくライブと対照的に

全てに気持ちが追いつかなくて

俯いてライブハウスの真っ黒な床を眺めながら耳をステージに集中させる

これでほんとに最後かな

離れる前に大我さんの歌を聞けたことは

幸運でもあるし

また忘れられなくなっちゃうからある意味不幸かもしれない

出来すぎた偶然にため息が出て

噛み締めるように大好きな大我さんの歌を聴いた

｢あの、もう閉めるんで｣

スタッフの人に声をかけられてすみませんって階段に向かう

吸い寄せられるように最後まで聞いてしまって
偶然にときめいちゃった自分に呆れながら
ライブハウスを出た

嘘でしょもうほんとに最悪

外は呆れるぐらいの大雨で
あの日みたいだなって大きい荷物を抱えて満月を見上げた
こんなとき傘をさしてくれたのは大我さんだっけ

傘しまったっけ家の傘立てかも
でも
新幹線の時間もある
家に取りに帰れば親戚に会ってしまうし

踏み出そうとした時

手元の電話が鳴る

名前を見てヒヤリとした

『あのもしもし』

「Aさん？貴方こんな雨の中どこに行ってるの」

親戚の声夜逃げ代行とか頼むべきだった？

心配なのは私じゃなくてお金のことだろう

『すみません』

「早く帰りなさいいい歳にもなって本当に」

電話先でずっと怒ってる声がする
怒鳴り声が1番嫌いだ
耳塞ぎたいぐらいとにかく嫌い

でも悪いのは私だからじっと俯いて聞く

『すみません帰ります帰るから怒らないで』

「また知らない男の所に行ってるのかしらおかしくて笑っちゃう」

『違いますほんと帰りますごめんなさい』

もういいやって雨の中1歩踏み出すと

誰かが腕をぐいってひっぱって

気づいたら片手のケータイが消えていた