【wrwrd】自由になれるものならば (ページ30)

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29話ページ30

早くもここに来てから一週間が経とうとしていた。

日が変われば誰かは来なくて、別の誰かが来たり。はたまた全員揃ったり。
ある日は誰も来なくて、鬱先生も夕食以外は部屋にこもってなにか作業をしていることもあった。
その日はちょびっとばかり寂しかった。鬱先生と2人が嫌とかじゃなくて、いつもより静かだったから。

段々とこの生活に慣れ始めてきた頃、チーノさんが仕事が休みのようで珍しく、というか鬱先生以外の人と初めてこの家で2人っきりになった。
だからと言っていつもより気を遣ったりするわけではなく、掃除や自分の洗濯をこなす。

でも一つだけ、いつもと違うことがあった。

ci「Aちゃん、どっか出かけへん？ご飯食べに行こうや！」

誰かからの、初めてのお出かけのお誘い。普段食材の買い物のためにしか外出しないから、ほとんど大阪の街を知らない。
気安く外出しても大丈夫だろうか、と迷っていると、「Aちゃんと出かけてみたいんよ」と追撃される。
そこまで言われて断れるほど、心は鬼ではない。

『行きましょうか』

ci「やったぁ。じゃあ準備してきて！」

背中をグイグイ押され急かされる。
部屋に行き着替える。なるべく目立たないような格好で。ついでにキャップも忘れずに。

リビングに戻ると、待ってました、と言わんばかりにウキウキしているチーノさんがいた。
行こっか、とキャップを目深に被り、外へ出る。

考え無しに出てきたけど、どこに行くんだろう？
隣を歩くチーノさんをチラッと横目で見ると、にこにことした顔で此方を見ており、不覚にも目が合う。

『機嫌、良さそうですね？』

ci「そう見えるんかぁ。なんでやと思うー？」

いきなりクイズが始まった。そんなこと急に聞かれても分かるわけがない。
どうしてだろう、と考えていると私が答えるよりも先にチーノさんが口を開く。

ci「正解はー、こうしてAちゃんと出かけてるからやで」

笑顔を崩さずに解答を教えてくれる。
人のことを言えた義理ではないが、食えない笑顔だなぁ。
心からの笑顔なのか、人を騙すための表面上だけなのか･･･。
でもさっきの言葉は、偽りではないって直感で思う。

生憎、そのストレートな物言いに返す言葉が見つからなかったので、そうですか、と少し冷めたような言い方になってしまった。
その態度にチーノさんは、特に気にした様子はなく、そうやでって言っていた。