秋風が吹く ページ26
永遠だと思ってた。
あの頃の輝かしさは一瞬だった。
過ぎてみれば痛いほど感じる。
でもその一瞬で人生はありえないほど輝くこともわかった。
別れてから3年が経った。
Aさんは大学四年生に。
北斗は会社の制度を変える立場の人間になっていた。
でももう、お互いどんな状況かは知ることもできない。
腐った会社によって奪われたものがあった。
でもちゃんと、得たものもあった。
僕は君と出会ったあの頃の場所へと引っ越した。
君の影響か誰の影響かはもう分からないほど過去へと変わったけど
僕は散歩が好きになった。
毎朝喫茶店で集合して、
君を学校へ送っていたな。
あの頃の道は今も変わらなかった。
チャイムが鳴り、高校生たちが帰って行く。
門の前に立つと
制服を着た君が今にも僕に抱きついてきそうだった。
制服のスカートの裾がヒラヒラ舞って
見えないはずの君が見える気がした。
その君は僕を色んな場所へと連れていく。
遠回りをしたあの道や、公園、ラーメンを食べたこともあった。
感情や風景が溢れ出す。
視界がぼやける。
忘れてたフリをしていたのに。
ずっと忘れられなかったあの頃と、
ずっと消えなかったあの思い出と、
ようやく別れることができた気がした。
大学四年生になった私は就職活動に全力だった。
「高校の時とった資格、どこやったっけ…」
履歴書に書く資格を探して物置を漁る。
うわヤバい、これ懐かしい…
高校の卒アルや寄せ書き、色んなものが残されていた。
その中にひとつ、気になるものがあった。
これって…
ほこりを被ったタコのぬいぐるみだった。
タグには油性ペンで「ターコ」と書いてあった。
ああこれはたしか…私が高校生だった時
おにーさんに取ってもらったぬいぐるみだ…
捨てるか迷った。
でも捨てる前にそのぬいぐるみを抱きしめる。
「ありがとう」
抱きしめた時、走馬灯のように思い出が蘇る。
あの時の私は幼かった。
自分に後悔したり、
数え切れないほど傷ついたり傷つけあったり。
それも全部、必要なことだった。
「大好きだったなあ」
滲んだ涙はもう苦い味はしなかった。
ベランダに出て秋空を見上げる。
私と彼を近づけたあの頃の秋風は、
もう二度と戻れない空へと吸い込まれていった。
「「元気？」」
2人は秋の空を見上げ
遠い地にいるかつての恋人に思いを馳せた。
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作者名：Kakityann | 作成日時：2024年2月26日 19時
