魔法 ページ25
おにーさん別れを告げてから放心状態だった。
電車に乗って動く景色を見つめる。
でもそこにはいろんな思い出が散らばっていて、
見ているのはつらかった。
…私は今から大学に行くけど、
おにーさんは仕事なのかな。
自然と思考回路がおにーさんへと繋がっている。
あ、そうか。もう、知らなくてもいいんだよね。
もう心配もしなくていいんだよね。
大学に行くといつも通りの毎日が広がっていた。
行き交う人々の1人1人の事情なんか誰も知らないだろう。
とんなにつらいことがあっても、明日は来る。
毎日は訪れる。
でも1人だけ、
事情なんか言わなくても私を心配してくれる人がいた。
その人はゆっくりと私に近づく。
「話聞くから、もう泣くな」
気づいたら泣いていた。
…なんで俺と会う時のAはいつも泣きそうなんだよ…
涙を隠すようにフードを被せてあげた。
どうせなに聞いても喋らないだろうから
手首を掴んで近くの広場に行った。
ベンチに座ってから話を聞く。
「なんで…」
「なんで樹がいるの？」
「あ？」
「どうしていつも私がつらい時に近くにいるの？」
「1人だとしんどいだろ」
「…だから会いに来た」
「そんな魔法みたいなことできるの？」
「ああできるよ」
「どこにいても声が聞こえるし
どこにいても見つけられるから。Aのこと」
「…別れた」
君はそれだけ言ってずっと泣いている。
きっとすごく頑張ったんだろう。
今までどれだけ奪おうと思ったことか、
今までどれだけ別れろと思ったことか、
でも今はこんなにつらそうなAを横に、
そんな感情でいた自分がバカバカしかった。
自分のことのように胸が痛くなる。
でも、わかってあげたい。わかりたい。Aのことを。
「…もう、落ち着いた？」
「うん」
目も鼻も赤く染まっていた。
思わず抱きしめてしまった。
「っ、、俺は、」
「俺はどこにも行かねーから」
「Aを1人になんかさせない」
「だからもうこれ以上傷つかないでいい」
「がんばらなくていいから」
「…ありがとう」
Aにとっては都合のいい奴でいい。
それでもそばにいたい。いさせてくれ。
…けど、そんなことは言えない。
募らせた想いを言葉にできない。
どうやって伝えればいいかわからない。
でもただ、一つだけ言えることがある。
俺はAが好きだ。ずっと。ずっと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 57人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Kakityann | 作成日時：2024年2月26日 19時
