▽smokeing_ゆうま ページ5
角のタバコ屋。俺はそこが好きだった。
20歳なりたての頃、周りに合わせて吸い出した煙草。
大学の友達も、地元の友達も、みんな吸ってたし、なんとなく吸っているうちにみんなと居ない時間も吸うようになった。
家への帰り道の角のところに、タバコ屋があった。
大きく『たばこ』と書かれているだけの看板。
『角のタバコ屋』とみんな呼んでいた。
灰皿があって、よくここで溜まっていた。1人のときにも、家に帰る前にタバコ吸ってから帰った。
よく見かけるお姉さんがいた。
名前も知らないし、夕暮れ時だったり夜だったりで、あまり顔も覚えていない。
何度か話したことがあるような、ないような。
ただ、セブンスターの香りだけは覚えている。
角のタバコ屋はなくなった。
なんでかは知らない。
俺はいつからか、あのタバコ屋でよく会っていたお姉さんと同じタバコを吸うようになっていた。
地元でも数少ない灰皿の設置してあるコンビニで、軽く買い出しを済ませたら一服してから戻るのがルーティンになっていた。
ごうた「買い出しだけだったら俺行きましたよー!」
ゆうま「んー、タバコ吸いたかったし。ちょっと待ってて。」
換気扇の下とはいえ、引っ越したばっかりの事務所でそうそう吸えたもんじゃない。
ごうたを車で待たせて、灰皿の前で火を着ける。
コツコツとヒールの音がした。女の人で紙タバコ、最近見ないから珍しいなあ。
「…すみません、火借りても?」
強めのメイクとかきあげた前髪。大きめのピアス。派手な爪。
苦手なタイプだと、ふと思った。
ゆうま「どぞ。」
視聴者、っぽくもないな。多分年上だろうし。いやでもわりと若い…?
「ありがとうございます。…なにか?」
ライターを手渡された時にふわっと香る匂いが、妙な既視感を覚えた。
ゆうま「変なこと聞いていいですか?」
「え、やですけど(笑)」
そうだ、こうやって笑う人だった。
ゆうま「角のタバコ屋の、お姉さんですか?」
「角…?あ、あそこか。多分、そうです。なんかどっかで会ったことあるなって、私も今思いました!」
くしゃっと笑った顔。やっぱり同い年くらいなのかも。
「お兄さんもお家近いの?また会うかもですね。」
火を消した彼女は、俺に背を向けた。
俺は何も言えないまま。
彼女について、知らないことが多すぎる。
ゆうま「また、会いたいです。」
「じゃあ、また(笑)」
微笑みを含んだ「またね」は、夕暮れと一緒に消えた。
318人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:aki | 作成日時:2022年3月24日 20時