フラクタル構造とはなんぞ？２

3月14日(ymgm) ページ20

世間はホワイトデーと呼ぶ今日、僕には全く縁のない、ただの円周率の日、通称“πの日”である。3.14から始まる円周率をどれだけ暗唱出来るかの勝負をふくらさんに仕掛けてみようか、とこうちゃんさんに相談していた。

「山上もバレンタイン貰ったでしょ？山森さんとか、他の女性スタッフから」

「それはありがたく頂きましたよ。義理とはいえお返しも用意して渡しました」

今日来ている女性陣にはもうお返しを渡し済み。それは僕だけじゃなくて、こうちゃんさんも他の人もそれぞれお返しを渡し終えているようだ。

「じゃあ、それは？」

「これはAさん宛ですよ」

学生ライターである彼女がここに来る日は疎ら。むしろ少ないからいつ会えるかわからない。だから日持ちする焼き菓子を選んだのだけど、なんだかこうちゃんさんの様子がおかしい。

「え、、Aちゃん？あのAちゃんから貰ったの！？」

「僕らの共通する知人に“Aさん”なんて１人しか居ないと思いますけど」

こうちゃんさんだって彼女からバレンタイン貰っただろうに、何をそんなに驚いているのか。

なんて疑問に思っていればAさんがオフィス内に入ってきて、こうちゃんさんは早々彼女の元へ駆け寄る。

何か急ぎの用でもあるのだろうか？









ホワイトデーだから、そんな邪な気持ちを少しだけ持って訪れたお世話になっている場所。部屋に入ろうとドアを開けた途端、なぜかこうちゃんさんが私の元へ来る。

何か記事にミスでもあったのだろうか？

「Aちゃん、山上にバレンタイン上げたの！？」

「、、なんでそれを？」

ぶわ、と顔に集まる熱はきっと私の頬を赤く染めていることだろう。さっきまで彼が居た場所に視線を移せば山上くんが居る。もしかしなくても山上くんから聞いたのだろう。

「俺の記憶が違ってなければAちゃんってもしかして、」

「こうちゃんさん！お口にチャックです！」

「マジで！？」

彼の大きなリアクションは部屋中の視線を集めてしまう。目立つことが苦手な私にはものすごくこの瞬間が苦痛だ。

「こうちゃんさん、Aさんいじめちゃダメですよ」

「俺はそんなつもりないし！」

「これ、この間のお返しね。チョコ凄く美味しかった」

「あ、ありがとう」

さっきの続き、とこうちゃんさんをさらっと回収した山上くんの後ろ姿を私はぼーっと見つめる。





『バレンタインなのにAちゃんからチョコないの？』

『私は本命にしか渡さない主義なので』

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