前日譚1 ページ3
誰かが、俺の名前を呼んでいた。
「……」
声は徐々に大きく、はっきりと聞こえてくるようになる。そして、
「来人!!」
「わぁッ!?」
俺は情けない声をあげ、椅子から転げ落ちた。
「ちょっと、何で寝てるのよ」
クラスメイトで幼馴染の田綱美姫が仁王立ちして俺を睨んでいた。
どうやら美姫の生徒会が終わるのを待っている内に、机に突っ伏して寝てしまったらしい。
「何やってるのよ……」
眠気の吹き飛んだ俺を、美姫が腕を掴んで、引っ張ってくれる。
「ありがとう。えっと、今は……」
壁の時計は下校時刻を大幅に過ぎている。美姫は「帰るわよ!早く!」と、早急に俺の手を引いて廊下を歩いた。
「美姫、生徒会はもう終わったのか?」
「とっくに終わったわよ。一瞬だったもの」
元々正義感の強かった美姫は、高校に入ると同時に生徒会に入った。何でも、美姫の父親は有名な資産家なんだそうで、その影響か1年生の時から会長を務めている。
(こいつは親父さんに似たんだな……)
美姫の父親には、昔、何度か会った事がある。といっても、その時の俺は幼かったから、今は顔も覚えていないが。
夜道を並んで歩きながら、俺はふと訊いた。
「……生徒会は終わってたなら、何で美姫は教室にいたんだ?」
忘れ物だろうか?それにしては戻ってくる時間が遅過ぎる。何であの時間に、わざわざ教室に立ち寄ったんだ?
「……最初は、普通に帰ろうと思ったんだけど」
美姫はどこか気まずそうに言う。
「道の途中まで来て、……ちょうど、この辺だったかな。……いたの。あの人が」
「……あの人、って……」
薄暗い夜道に俺達以外、人の姿はない。
「……ストーカー、か?」
美姫は黙ったまま、首を縦に振った。
彼女は数週間前から、ストーカーの被害に悩まされていたのだ。
「……もしかしてだけど、来人、私を待ってくれてたの?」
「……ん、まぁな。さすがに、一人で帰らせるわけにはいかないだろ」
「……ありがとう」
ぽつりとお礼の言葉を呟く美姫。……そういえば、さっきはこの辺りにストーカーが……そう、美姫の言葉を思い返した瞬間。
「きゃっ!?」
突然肩に手を置かれ、美姫は飛び上がった。振り向くとそこには、黒子のような服装をした人物。
「美姫……!!」
「……」
そいつは無言で、黒い布を被った顔を美姫に近づける。
「にっ……逃げるぞ!!」
「あ……う、うん……!!」
俺は咄嗟に、美姫の手を引いて走り出した。
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原作プレイしたよ - 原作で死んだキャラが生きてたり、ストーカーに悩まされているのが主人公じゃなくて親友だったりといくらか反転している要素がありますね 原作ではどのルートを選んでも死ぬキャラが死ななかったり、その逆もありそうですね (2021年7月22日 3時) (レス) id: 27a40594b8 (このIDを非表示/違反報告)
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