5 ページ26
.
「……まつ毛付いてんぞ」
「へ…………？」
目を開けると、片桐さんは指に乗ったまつ毛を少し見つめたあと、ポイっと捨てた。
恥ずかしくて私はうつむいた。でも、私が桜宮家3代目の娘だってことはバレてないみたいでほっとする。
「そ、それじゃ」
今度こそ去ろうとすると、手首を掴まれた。
「今度は何ですか！？」
2度目の引き止めに、つい大きめの声を出してしまった。
「お前、今日暇か」
つぶらな瞳が私を真っ直ぐに見つめる。
何これ。私これから何かに誘われるの？
「暇……ですけど」
「……今夜、一緒に飯でもどうだ」
「え……！是非！……あ、でも、冷蔵庫の食材を早く消費しなきゃいけなくて……」
「そうか」
片桐さんの表情は変わらないけど、目が少し残念そうな雰囲気を醸し出していて、思わず片桐さん相手に冗談を口にする。
「私の家で食べます？」
冗談を言うときの笑みを浮かべながら片桐さんを見ると、結構真面目に受け取っていたようで。
「お前がいいなら行く」
いつものトーンでそう返された。
予想外の返答に驚いた私の顔を見て、片桐さんは「それが礼だろ？」と言う。
「いや……お礼はお弁当にしようかと思ってたんですけど……いや、大丈夫です！私の家でご飯にしましょうか」
「じゃあ、夜そっち行く」
片桐さんは私の頭をくしゃくしゃと撫でて、さっき開久の集団が行った方へ歩いて行った。
私はその背中を呆然と眺めながら、今までの状況をゆっくりと思い返す。
ほっぺに指が当たる感触、手首を掴まれた感触、頭を撫でられた感触…………。
やっと思考が今の状況に追いついて、私の心臓が激しく動く。しかも、今夜、私の家でご飯？
一気に色んなことが起こりすぎて、私は叫び出しそうだった。
一人暮らしの女の家に男入れて大丈夫？相手はツッパリ。しかもただのツッパリじゃなくて開久の頭張ってるツッパリ。力だってものすごく強いし、何かあったら勝てる気がしない。
……いや、片桐さんはそんな人じゃない。男気があるから絶対にそんなことはしないと思う。そうであって欲しい。きっと、私は片桐さんのことを助けたことがあるから、戦友みたいな感覚で私を誘ったんだろう。うん、そうだ。いきなり飛び蹴りする女とか、女として見られてるはずなんかない。
自分を落ち着かせるために自分でもよくわからない思考を巡らせながら、私は逃げるように家へ帰った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 375人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こいずみ(プロフ) - 青龍 葵さん» コメントありがとうございます！返事が大変遅くなりましてすみません、、！！久しぶりに更新しました。またお楽しみいただけると幸いです！！ (2021年10月21日 23時) (
レス) id: 64da7f082c (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - 更新を楽しみにしてます。 (2021年5月3日 5時) (レス) id: e10675e39d (このIDを非表示/違反報告)
こいずみ(プロフ) - hiroさん» ありがとうございます！！ (2020年8月18日 11時) (レス) id: 64da7f082c (このIDを非表示/違反報告)
hiro - とても面白かったです！更新楽しみにしています！頑張ってください！ (2020年8月14日 1時) (レス) id: ed14337de3 (このIDを非表示/違反報告)
こいずみ(プロフ) - 豫さん» 果たしてお家デート(？)なのでしょうか！！笑 きゅんきゅんしていただけて嬉しいです〜！！ (2020年8月8日 1時) (レス) id: 64da7f082c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こいずみ | 作成日時：2020年7月31日 16時
