第四百五十四話 退行 ページ47
ノワールの声の先にいたのは獅童正義だった。彼も他の囚人と同じように足に鉄球のついた鎖を身につけている。まさか獅童のこんな姿を見ることになるとは、と私は目を丸くする。
この異常事態に頭が回らない。
「 相変わらずいい身体してんな、高巻。もっとこっち来いよ。」
「 あんたっ…！」
「 ふん…冗談だ、もう面倒は御免だ。せっかく、何も考えなくても生きていけるようになったんだしな。」
言動は卑劣極まりないが、その表情にかつての驕りがなかったように思える。鴨志田も他の囚人と同じ、気力を抜かれてしまっているかのように感じられた。それは他のシャドウも同じだった。
「 自分には才能があるなどと勘違いして、身の丈に合わん欲を抱いたのが馬鹿だった。」
「 空気読まない奴は叩かれて当然…大物のフリは、もうやめだ。バカでいいじゃないか。バカだからって、罰を受けるわけじゃない。いいんだよ、自分以上を目指さなくてもさ。」
彼らの様子が、『改心したから』このように変わったとは思えなかった。改心は彼らを歪んだ欲望を抱く前に戻すだけだ。思考する気力を奪うものではない。だが、
「 まさか、歪んだ欲を無くしたおかげで、囚われた人生を選ぶようになったってのか…？」
「 奥村なら、残念ながらいないよ。」
私たちの視線がその声の主の方を向く。
「 死んだ者はさすがにどうしようもない。…済まなかったな。」
「 ええ、分かっています。ご丁寧にどうも。」
すまない、その一言で彼の手で殺された人々が戻ってきたらどれほどよいことだろう。そんな願望など、夢物語にすぎないが。
「 ついでに教えていただけますか。ここは一体、何なんです。」
「 『退行の牢獄』と呼ぶらしい。」
「 退行…？」
「 ここが、自由でないように見えるかね。とんでもない。ここでは誰もが、最高の自由を得られるのさ。自分で悩み、考えることからの解放。『選ばなくてよい自由』をね。」
選ばなくてよい自由、それは本当に自由なのだろうか。私のペルソナは、二人とも自由を求めて生きてきた。私だってそうだ。
彼らが求めてきた自由は、私が求めてきた自由は、
「 そんなの、自由じゃない… 」
自分の道は自分で選ぶ。自分の正義は自分で決める。
それこそが本当の自由じゃないのか。
「 だが、ここで大人しくしていられない愚か者もいる。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 121人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すみれ(プロフ) - をしすさん» ありがとうございます！素敵と言って貰えるような作品に少しでもなっていたことを心から嬉しく思います。また描いていただいたイラストの素晴らしさを共有できて良かったです..！これからの展開も楽しんでいただけるように頑張りますので、楽しみにお待ちください♡ (11月4日 7時) (
レス) @page50 id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - (文字数に収まらなかったのでここで失礼します…長文失礼しました) (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - やっぱり好き…。すみれさんの書くお話はどれも素敵すぎて読み終えた時に不思議な高揚感があります！そんな時にむぎさん、めもりさん、まりりさんの激カワイラスト達を見たらいてもたってもいられずコメントさせていただきました！これからも応援しています。 (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
すみれ(プロフ) - もみじさん» ありがとうございます🥹久々のコメントがとても身に染みます…！オリジナルの部分を今回はかなり挟んだので、皆さんにどう思われるか少し不安でしたが、そう言っていただけてすごく嬉しいです。この先の展開も楽しんでいただけるように頑張ります！ (9月11日 7時) (レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - コメント失礼します。ずっと前からこの作品が大好きです！話の構成がとても上手で、特に『運命を変えろ』のお話はワクワクしっぱなしでした…！！獅童戦やその先の展開がすごく楽しみです。作者様のペースで更新頑張ってください。陰ながら応援しています！ (9月11日 7時) (レス) id: be2598a382 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すみれ | 作成日時：2023年8月19日 11時
