第四百四十話 走りだせ ページ32
その時、異変が起こった。シドウが胸を苦しそうに抑え始めたのだ。これまで沢山の経験をしてきたからこそわかる違和感。
「 う…うう…っ。」
シドウは上半身を揺らして地面に倒れそうになる。が、その身体が地面にぶつかるほんの少し前にその姿は消滅した。これには私達も動揺する心を鎮めることができなかった。
「 なんだ?」
パレスの主に反応するかのように地面も揺れる。
「 え!?」
「 爆発…!?」
さらに大きく揺れ始めた。
「 オタカラ、盗ってないよね?」
「 話はあとだ!とにかくオタカラ盗って逃げるぞ!」
現実の獅童に何か起こったのだろうか。でないと、あんな風に消滅するなんて有り得ない。
考えたいことは沢山あるが、今はモルガナの言うように逃げることのみを考えるべきだ。パレスの崩壊が始まっている。
「 船に、海水が…!」
「 これ、沈む…?」
私たちに残された逃げ道はことごとく潰されてしまっていた。死という一文字が私たちを追い詰める。
「 ダメだー!これ死ぬー!泳げないしっ!」
だが、それでも諦めたくなかった。ここで死ぬのは、絶対に嫌だし、受け入れたくなんかない。
「 あった!救命艇!」
「 あれにとどきゃ… 」
船は大きく傾いていた。救命艇が設置されている場所に私たちが届くには、かなりのスピードを保ったまま走る必要がある。そんなことができる人物は一人しか思いつかない。だが、彼は…
「 俺が行く。」
「 竜司… 」
「 テメェら、つかまってろよ。」
彼は私たちに心配させまいと優しい声色でそう言う。クラウチングスタートの姿勢を取り、「 ここで走んなきゃいつ走るんだ。」と己に言い聞かせ、地面を強く蹴った。
綺麗なフォームだった。彼が陸上に対してどれだけの思いを抱えているのか、それが伝わってくる走りだった。
私はそんな彼の姿を見て、いつの間にか涙を流していた。頑張れ、その気持ちだけが溢れだしてくる。
「 うおおおっ!」
鴨志田に潰された右足を叩き、竜司は走り続ける。彼は上り坂になっている甲板を一定の速度で走り、そして飛び上がる。彼が両手で掴んだ先には救命艇を動かすためのレバーがあった。
「 すごいっ!」
私たちは即座に救命艇へと乗り込み、功労者である彼を迎えに行く。彼の真下に船を置き、彼が乗り移ってくるのを待つだけだった。だが、そんな私たちを阻んだのは大きな爆発だ。
目の前で再び大切な人を失う光景を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。
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すみれ(プロフ) - をしすさん» ありがとうございます!素敵と言って貰えるような作品に少しでもなっていたことを心から嬉しく思います。また描いていただいたイラストの素晴らしさを共有できて良かったです..!これからの展開も楽しんでいただけるように頑張りますので、楽しみにお待ちください♡ (11月4日 7時) (レス) @page50 id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - (文字数に収まらなかったのでここで失礼します…長文失礼しました) (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - やっぱり好き…。すみれさんの書くお話はどれも素敵すぎて読み終えた時に不思議な高揚感があります!そんな時にむぎさん、めもりさん、まりりさんの激カワイラスト達を見たらいてもたってもいられずコメントさせていただきました!これからも応援しています。 (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
すみれ(プロフ) - もみじさん» ありがとうございます🥹久々のコメントがとても身に染みます…!オリジナルの部分を今回はかなり挟んだので、皆さんにどう思われるか少し不安でしたが、そう言っていただけてすごく嬉しいです。この先の展開も楽しんでいただけるように頑張ります! (9月11日 7時) (レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - コメント失礼します。ずっと前からこの作品が大好きです!話の構成がとても上手で、特に『運命を変えろ』のお話はワクワクしっぱなしでした…!!獅童戦やその先の展開がすごく楽しみです。作者様のペースで更新頑張ってください。陰ながら応援しています! (9月11日 7時) (レス) id: be2598a382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみれ | 作成日時:2023年8月19日 11時