第四百二十六話 水密隔壁 ページ15
彼が撃ったのはジョーカー、ではなく獅童の認知上の明智吾郎だった。腹を撃たれた奴は、苦しそうに悶え、膝をついた。その一瞬のうちに、彼はもう一度銃を放つ。
パリンとガラスの割れた音がした。
『水密隔壁が閉鎖されます。隔壁の内側にいる作業員は、直ちに退避してください。』
艦内音声が鳴り響く。吾郎は、私の背中を力いっぱい怪盗団のみんながいる方へと押した。振り返って彼の顔を見ると、そこには笑顔が浮かんでいた。
彼との間に大きな壁が現れる。
「 おわっ!なんだコレ!」
「 明智!」
「 とっとと、行け。」
彼の方には大量のシャドウがいる。いくら彼でも、この疲弊した状況では為す術がない。「死ぬ気、なの…?」と私は声を漏らす。
うそ、いや…待って。
「 お前たちは、本当に、馬鹿だ…見捨てていけば、よかったのに。コイツら相手に、今の俺を抱えてちゃ…全滅だろうが。」
ゴホッゴホッと彼の咳が聞こえる。血を吐きそうな、そんな苦しそうな咳が聞こえた。こんな状態じゃ…彼は。
ダメだよ、死んじゃ嫌。
「 代わりに、取引だ…まさか、断ったり、しない、よな…?」
「 お前…こんな時に。」
「 獅童を改心、させろ…俺の代わりに、罪を終わりに…頼む。」
「 手袋は預かっておく。」
それはジョーカーが以前彼から受けとっていた、再戦の約束の証だった。彼の身につけていた手袋の、片方。
「 ハッ、この期に及んでそれを言う?全く君ってヤツは、本当に… 」
彼が笑っていることが、この分厚い壁越しでも伝わってきた。私はその壁を非力な力で叩くことしかできない。
「 吾郎…待って…!私はあなたと…っ!」
「 …君と出会えたことが、俺の人生における、一番の祝福だ。幸せに、なれよ。」
無理だよ…あなたがいない世界で、
私は…幸せになんて、なれないよっ…!
「 モナ、開ける方法… 」
その時、大きな銃声が二発聞こえた。
「 反応が…もう、無い… 」
私の視界は、その後のナビの声を聞くまでもなく、真っ黒になった。息が上手く吸えず、酸素が頭に回ってこない。酷い頭痛も同時に起こっている。同じことを、頭のなかでぐちゃぐちゃと考えることしかできない。
「 嫌、いやだ、いやだよ…!」
◇◇◇
その時、声が聞こえたの。
私の中の、もう一人の私が、私に向けて言ったの。
運命を変えたいか、って。
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すみれ(プロフ) - をしすさん» ありがとうございます!素敵と言って貰えるような作品に少しでもなっていたことを心から嬉しく思います。また描いていただいたイラストの素晴らしさを共有できて良かったです..!これからの展開も楽しんでいただけるように頑張りますので、楽しみにお待ちください♡ (11月4日 7時) (レス) @page50 id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - (文字数に収まらなかったのでここで失礼します…長文失礼しました) (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - やっぱり好き…。すみれさんの書くお話はどれも素敵すぎて読み終えた時に不思議な高揚感があります!そんな時にむぎさん、めもりさん、まりりさんの激カワイラスト達を見たらいてもたってもいられずコメントさせていただきました!これからも応援しています。 (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
すみれ(プロフ) - もみじさん» ありがとうございます🥹久々のコメントがとても身に染みます…!オリジナルの部分を今回はかなり挟んだので、皆さんにどう思われるか少し不安でしたが、そう言っていただけてすごく嬉しいです。この先の展開も楽しんでいただけるように頑張ります! (9月11日 7時) (レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - コメント失礼します。ずっと前からこの作品が大好きです!話の構成がとても上手で、特に『運命を変えろ』のお話はワクワクしっぱなしでした…!!獅童戦やその先の展開がすごく楽しみです。作者様のペースで更新頑張ってください。陰ながら応援しています! (9月11日 7時) (レス) id: be2598a382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみれ | 作成日時:2023年8月19日 11時