第五百十四話 言われると気になる ページ10
『う…うう……どうして、どうしてだ…』
左手で顔を覆い、眼鏡に涙が落ちることを気にもとめず、ただ悲しみの感情のあまり泣き出す伸一。愛しい娘の変わり果てた青白い姿、冷たい温度に感情を抑え切ることができなかった。
『お父、さん？』
ガチャ。扉が開く音と少女の声。そこまででこの映像は止まった。その声の主にリティは覚えがあり、その人物へと目線を向ける。
「なん、で…？」
「……今の映像、芳澤さんのお父さんだよね。それに、亡くなっていたのは…」
「…すみれ。妹の、すみれです」
彼女に兄妹がいたことは知っていた。だがその情報源がかすみから直接聞いた話ではなく、噂話としてだった故に、一度も内容について口出しをしたことはなかった。半端な情報だけでものを言われることのなんとも言えない悔しさは知っていたから。
「なんであんな映像が…」
その時、かすみが激しい頭痛に襲われた。頭を劈く激しい高音。ペルソナを覚醒した時と同じような、そんな感覚にかすみは頭を抱える。
「かすみちゃん、大丈夫！？」
「す、すみません。私、最近変なんです。何かを思い出さなきゃいけないような、思い出しちゃいけないような…」
「…芳澤さん。動ける？とにかく今は先へ進もう」
「……大丈夫です。行きましょう」
かすみは背筋を伸ばし、真っ直ぐに足を進める。彼女の歩き方からだけでも、かすみが今まで新体操に対してどのように向き合ってきたのかを感じる。リティはそんなかすみを母性のような、そんな愛おしさを含んだ優しい目をしながら見つめていた。
「ねえ。」
クロウがリティのマントの裾を掴み、彼女の動きを止める。彼からそんなことをされたのは初めてなリティは驚きの瞳で彼を見た。
「どうしたの」
「さっき、彼女のことをなんて呼んだ？」
「え、かすみちゃんって言ったけど…」
そう言うと彼は考え込む姿勢をとった。これは出会った頃から変わらない彼の癖だった。自分の言葉に何か思うところはあるのか、とリティは不思議に思った。
「…もう一つ質問。君たちが知り合ったのはいつだっけ？」
「去年の春だ」
「何か気になることがある？」
「いや、まだ確証がない。気にしなくていいよ」
彼は足早に先へと続く道を歩き出す。せかせかと大股で歩く感じは彼らしいな、と何処か懐かしく思った。だがそれ以上に思うことがある。
「そう言われると気になっちゃうよね」
「ああ、そうだな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 153人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね！いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (
レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜！！すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(？)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すみれ | 作成日時：2024年1月10日 17時
