第五百五十三話 忘れないで ページ49
「ここはリティに任せた」
そう言ってジョーカーは後ろへと下がる。小さくため息を吐いて、クロウもそれに続く。すみれとリティ、二人だけの空間となった。彼女は目の前の少女の顔を静かに見つめている。
「わたしは戻れない。かすみを殺したすみれにはッ！」
底知れない罪悪感。生きていることすらも罪と感じているように思える。そんな彼女の苦しみはやはり計り知れない。それを理解するなんてことは誰にとっても不可能だ。たとえ、それが世界を救ったトリックスターであったとしても。物語を急変させる異端者であったとしても。
＿＿＿でもね。そんな私でもこれだけは言えるんだ。
「『目の前の壁は自分で乗り越えるもの』」
「…！！」
これは貴女が言った言葉だから。
「あの時言った貴女の言葉は、『かすみ』からの借り物じゃない。『すみれ』だから言えたことだよ。そんなことを言える人が全部から逃げたいって心から思っているとは、私は思えない」
「…せん、ぱい」
今にもポロポロと涙が溢れ出しそうな表情だった。彼女はその小さな体に一体どれほどの重みを背負ってきたのだろう。
「すみれ。弱くてもいいよ。みっともなくたっていい。でも…諦めないで欲しい。貴女が『すみれ』でいることをやめてしまったら」
丸喜の手によって歪められてしまったら。
「貴女の中の『かすみ』は忘れられてしまうから」
「！！」
＿＿＿それは嫌だよね。だって大好きなお姉ちゃんなんだもの。
Aはすみれの肩を優しく抱きしめた。震える背中をそっと撫で、彼女の気持ちに寄り添う。そんなAの優しさの中にすみれはかつての姉の姿を思い浮かべた。
乗り越えることのできない大きな壁だと思っていたかすみ。でもそれ以前に彼女は自分のお姉ちゃんだった。優しくて、可愛くて、強くて。でも料理は下手っぴで。完璧では無いけれど、それでも自慢のお姉ちゃんだった。
＿＿＿なんで忘れちゃってたんだろう。
「せんぱい…わたし…」
「ゆっくりでいいんだよ。すみれちゃん」
「…でも、怖い。怖いよ…」
今まで目を背けてきた苦しみに目を向けるのは。
その思いを哀れとして受け取った丸喜が靴音を鳴らしながら近付いてくる。手を大きく広げ、まるでどこぞの教祖様かのように振る舞う。
「彼女の言葉に耳を貸さなくていい。君が『かすみ』でいられる世界。君が苦しまない世界。それを僕が創ってあげるから」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 153人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね！いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (
レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜！！すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(？)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すみれ | 作成日時：2024年1月10日 17時
