第五百四十二話 タラレバ ページ38
メイド喫茶で働いていた時ぶりの秋葉原。久しぶりとは言っても、たった数ヶ月前だというのに懐かしい気持ちに身を包まれながら、この場所にいるはずである彼女の姿を探す。程なくして見つけた。
「双葉」
家族と楽しそうに買い物をする双葉を。
「まあ、Aちゃんじゃない」
「こんにちは。今日はみんなでお出かけ、ですか？」
「いちおー私のゲームを買いに来たんだがな…目移りして一向に決まりそうにない」
「早くしろよ。そろそろメシの時間だろ。あ、Aちゃんも一緒にどうだ？」
「そうしたいのはいっぱいなのですが、この後用事があって…」
今日は双葉と話したあと、そのまま春の元へと訪れるつもりだ。お昼頃に吉祥寺で会う約束をしているため、残念だが彼女らとご飯を食べる時間はなかった。
「そうか。それなら仕方ないな」
「すみません。また機会があればぜひ！」
「了解だ。その時はそうじろうのカレーを奢ってやる！」
「まあ、いいわね。私も混ざっちゃお」
「おいおい…」
と言いつつも惣治郎は幸せそうな柔らかい表情をしていた。この現実は双葉の幸せを元に創られているが、それは彼にとっても同じなのだろう。大切な人が生きて、一緒に笑う世界。
＿＿＿こうなっていたらどれだけ良かったことか。
一色若葉が生きている世界。それは即ち、吾郎が罪を犯すことのなかった世界であるということ。Aが無意識に望んでしまっていたことである。あるはずのないタラレバ。だが丸喜の世界ではそれが現実になり得る。
「A、黙って突っ立ってどうした？具合でも悪いのか？」
「ううん、そういうわけじゃないの」
＿＿＿＿考えても仕方がない。
今考えるべきは双葉にどんな言葉をかけるかだ。かつて彼が言ったように、タラレバを言っても仕方がない。現実はそうならなかったし、そうでなければ吾郎とも、双葉とも出会うこともなかった。あの辛い出来事も今に繋がる大事な出来事なのだ。
「双葉は、変わったよ」
「ん、なんだいきなり。そうだぞ、私は変わったんだ！みんなに出会えたからな！…て、あれ？」
「何かおかしくないか？」と彼女は呟く。双葉は母親の幻影に囚われ、自分を見失っていた。そんな彼女を変えたのは怪盗団であり、彼女自身だった。歪んだ声に惑わされないと前を向いた彼女自身。
「本当に辛いと思うけど…でも、双葉はひとりじゃないからね」
「え…」
「私たちが傍にいるから。だから…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 153人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね！いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (
レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜！！すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(？)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すみれ | 作成日時：2024年1月10日 17時
