第五百三十四話 この世界じゃ出会えない ページ30
あったかもしれない幸せ。彼の陸上部仲間である中岡の話によると、竜司は一度足を壊してしまったという事実はあるも、現在はそれを感じさせないような走りしているらしい。おそらく、鴨志田に足を潰されたという事実はそこにはなくなっている。
「つか、冬休みにまで坂本に会いに来るってことは…もしかして秋瀬さん、コイツと…」
「ばっか。そんなんじゃねーって。こいつは俺のなかま…」
「…竜司」
「仲間？ふつーに友達、でいいよな。何言ってんだ俺…」
認知を操作されていても、大事な部分は彼の中に残っていた。それはこの幸せな現状に押し潰されて、小さく弱くなってしまっている思い。Aは竜司の中に残るそれを信じて言葉をかける。
「間違ってない。私たちは仲間だよ」
「お、おう…」
＿＿＿伝えよう、今まで私が彼に思っていたこと。
「私、竜司の走る姿が好き。みんなのために、痛む足を叩いて走ってくれた時、本当に胸が打たれた」
獅童のパレスで怪盗団を救ってくれた彼の走り。Aはその感動を忘れることが出来なかった。足がどれだけ傷もうとも、「ここで走んなきゃ、いつ走るんだ」と己を鼓舞し、華麗な走りを見せてくれたこと。そしてそれが怪盗団のみんなのことを思っての行動だったこと。全部あの理不尽で無慈悲な世界で生きてきた彼だからこそ、できたことだった。
＿＿＿なかったことにしたら、竜司が竜司じゃなくなってしまう気がする。それは嫌。絶対嫌。
「痛む、足…うお"っ！？」
竜司の頭に記憶が流れる。鴨志田に反抗したくとも、権力で押しつぶされていた過去。悔しくて、惨めで、格好悪い自分が嫌いだった。そんな自分を変えたいと、ペルソナを覚醒し、怪盗団として人々を救ってきた記憶。消すことのできない、大事な記憶。
「…竜司、気付いて。この世界じゃ私たちは出会えなかったってこと」
「…意味、わかんねーよ」
Aは寂しそうに小さく笑った。今自分にできることは全部できたと思う、とAは彼らからくるりと背を向け、前に進む。
「またね」
Aは流れそうになる涙を必死に堪えた。自分の行動が彼に与えられた幸せを奪うことになるであろうということが、何よりも罪深く感じる。
＿＿＿でも、これは私が決めたことだから。
世界中の人が間違っていると指を指してくるような行動を自分がしていたとしても、自分だけはその行動を肯定する。自分の一番の味方は自分自身。
＿＿＿私は自分を否定しない。
第五百三十五話 苦しみが出会わせる→←第五百三十三話 陸上でスカウト
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すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね！いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (
レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜！！すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(？)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：すみれ | 作成日時：2024年1月10日 17時
