第五百二十九話 恋人との時間 ページ25
吾郎は唇を尖らせる。それが照れ隠し故の行動であるということはわかりきっているので、Aは「あはは！」と楽しげに笑った。
「…してない」
「え？」
「ドキドキとかしてないから」
まるで小さい子供が親に気に食わないことを言われて、必死に否定している時のようだ。彼は時折子供っぽい一面がある。前々からそれを感じていたが、こうもハッキリとその面を見せてくれたのは初めてだ。そんな彼の姿が愛おしくて、Aの中の悪戯心という名の悪魔が出てきてしまう。
「してる」
「してない」
「してる」
「してない」
「してるよ、ほら」
ふわっと彼の身体を抱きしめてみる。冬の風が二人の横を通り過ぎるが、そんな冷たい風も気にならないほどの温かさにAは包まれていた。
「吾郎の心臓、早いよ」
「…君も負けてないけど」
吾郎がAの身体をそれはそれは強く抱きしめ返す。その強さは着物の帯をキツく締めた時と似ていて、彼女は思わず「ぐえっ」と情けない声を上げてしまう。
「何その声」
はは、と彼に笑われ、Aは恥ずかしくなって頬を小さく膨らませた。自分が優位に立っていたと思っていたのに、いつの間にか逆転されている。悔しいけど、ドキドキしてしまう。
「ほら」
彼に差し出された手を取り、ギュッと握る。いつの間にかお互いに外していた手袋。今の季節こそ手袋をつけるべきなのに、そうしてしまうのは「手を繋ぐ時は直接がいい」と相談しなくてもお互いがそう思っているから。
「僕がこんな恋人のクソみたいなやり取りをするとは…」
「ちょっと…クソとか言わないでよ。」
「じゃあ何て言えばいい？」
＿＿＿なんて言えばいい…！？
うーん、と考え込むAの姿勢が自分に似てきていることに気付いた吾郎は満足げな表情になる。そんなことは露知らず、彼女は真面目に悩んでいた。このやり取りに名前をつけるなら、何がいいのか。
「うーん、『恋人とのいちゃいちゃ最高』、とか」
冬の風が一層強く、冷たく感じた。
「うわ、鳥肌が…」
「私も自分で言っててなんかゾワッてしちゃった」
お互いに手を繋いでいない方の手で二の腕をさする。そんな行動まで一致するとは思いもよらなくて、二人で顔を見合せて、小さく笑いあった。
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すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね！いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (
レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜！！すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(？)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：すみれ | 作成日時：2024年1月10日 17時
