第五百二十一話 芳澤すみれ ページ17
「去年の春…秀尽学園に入学する前…練習の帰り…さっきの、通りで…『かすみ』はよそ見してた私を…車から庇って…」
か細く、ふっと息を吹けば消えてしまいそうな声。
「私は…かすみに庇われた…かすみの夢も、人生も奪った…妹の、芳澤『すみれ』…」
頭を抱えて、地面に座り込む。思い出したくない、無慈悲な現実とはこのことを指していた。妹は、姉が自分を庇って亡くなったという事実を受け入れきれずにいるようだった。
＿＿＿受け入れられるわけがない、よ。
その経験を追体験しただけで、こんなにも心が痛く、今にも消えてしまいたいと思うんだもの。実際にその状況に陥ってしまったら、自分がどうなるかわからない。すみれの苦しみはそれほど測りきれなかった。
「続きは僕が話すよ。当事者だからね。彼女の本当の名前は、かすみさんの妹…芳澤『すみれ』だ。けれどこれまで彼女は、自分を『芳澤かすみ』…亡くなったお姉さんだと認知していた」
認知、その単語は怪盗団として活動してきたリティには大いに覚えがあった。そう言われると、様々なことに辻褄が合うような気がした。
「もちろん…本人の認知が変わっただけだから、他の人から見れば、彼女は『すみれ』さんのままだ。どういうわけか、例外もあったみたいだけどね」
Aは彼女に自己紹介をされた清掃活動の日から、彼女は芳澤かすみであると認識していた。そこに疑いなど存在するはずがないし、ましてや彼女が亡くなった姉を演じているとは思いもしない。
「君たちは知らなかったようだけど、彼女は最初から『芳澤すみれ』だよ。なのにさっきの映像を見た時、彼女は自分を『芳澤かすみ』だと名乗った…この状況でそんなおかしな発言をするんだ。一瞬、彼女がこのパレスの主かとも疑ったけど…」
「だから私に聞いたんだ。彼女の事を何て呼んだのかって」
「ああ」とクロウが頷く。彼はその事実を知っていたのに、自分はずっと知らなかった。リティは何も真実を知らなかった過去の自分を責めてしまいたくなる衝動に駆られてしまった。
「かすみが死んだ後、秀尽学園に入学するより前に私…丸喜先生にカウンセリングをしてもらったんです。そのとき…先生に言ったんです。かすみがもう居なくて、あの子が夢を叶えられないなら…私がかすみになって、代わりに夢を叶えたいって」
わたしがあなたに…そんな思いだったのだろう。
「それで、彼女のためを思って認知に干渉したと？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 153人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね！いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (
レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜！！すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(？)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すみれ | 作成日時：2024年1月10日 17時
