勝負 ページ9
伊野尾先生サイド
コンコン、と力を込めたノックをすると、「はい」と小さめの返事がくる。
伊野尾先生「涼介、迎えに来たよー」
涼介の不安を少しでも取り除けるように、俺は弾んだ口調で言った。
でも、「うん」とうつむいて答えた涼介の表情には、
不安、というか、緊張が浮かんでいる。
伊野尾先生「無菌室、行ける？ 行きたくないなら別にまだ…………」
涼介「行く！」
強い意志をもった大きな瞳で見つめられて、そのきれいさに吸い込まれてしまいそうになる。
伊野尾先生「そうか。なら、向こうにもDVDとかはあるんだけど、好きな漫画とか2、3冊選んで持ってくぞ」
涼介「3冊だけ？」
伊野尾先生「じゃあ５冊でいいよ」
涼介「5冊だけ？」
伊野尾先生「じゃあ7冊」
涼介の媚びるような視線に負け、３冊だったのが７冊まで増えた。
涼介「わかった、ありがとう」
満足そうに笑った涼介は、「どれにしようかな」と言って本を選び始める。
涼介「先生も手伝って」
伊野尾先生「手伝うって何を」
涼介「ページ数多いの選んでよ」
15冊ほど置いてある少年漫画の増刊号を手に取り、最後のページを開いて、棚に戻したりベッドの上に置いたりしている涼介。
大変そうだし、手伝ってやるか。
伊野尾先生「はーい」
涼介「ページが多い5冊選んでね。よろしく。俺は小説見るから」
伊野尾先生「わかったよ」
あぁ、俺は涼介にあますぎるんだ。
もし頼んできたのが大ちゃんだったら、「自分でやれよ」と軽く突き放すのに。
隣で「これ面白かったんだよな」とか「あー、これもいい」とかわーわー騒いでいる涼介は、大人より我慢強いくせにまだ
涼介「よし、これにする！」
涼介は２冊の本を見せてくる。
伊野尾先生「こっちも多いの選んだぞ」
涼介「ありがと、伊野尾先生」
伊野尾先生「行こうか。その本持つから貸して」
涼介「うん。先生いつもより優しっ」
伊野尾先生「俺はいつも優しいんだよ」
適当にそう返しながら病室を出ると、涼介は「そうだっけ？」とニヤニヤしながらこっちに来る。
涼介が廊下に出たのを確認してから扉を離すと、ゆっくり閉まっていった。
涼介「あのさ、先生」
廊下を歩き小児科病棟を抜けると、涼介が下を見ながら口を開いた。
伊野尾先生「どうした？」
涼介「有岡先生とご飯行ってあげてよ」
伊野尾先生「何で？」
涼介「有岡先生、泣いてたから」
伊野尾先生「了解」
そう言うと、涼介は笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 220人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：J | 作成日時：2020年9月29日 14時
