勝負１ ページ49
侑李サイド
「勉強、頑張ってな」
帰り際に、涼介に言われた。
頑張らないといけないことくらいわかっているけれど、今はそんな気にはなれなかった。
病院の、消毒液の匂いが漂う静まり返った廊下を、一人で歩く。
大ちゃん先生とか、いつもいるくせに、こういうときに限っていないんだよな。
体力をつけるためにも、エレベーターじゃなくて階段を使って一階まで降りる。
高校でも、絶対に部活に入ると決めていた。
小学校に行けなかった分も学校生活を充実させるために。
中庭に出ると、冷たい風が僕の頬を優しく撫でた。
お母さんとか、お父さんとか、いるのが�猊當稔瓩覆里�な……？
二週間後、進路についての三者面談がある。
今までの面談は、時間がある先生に来てもらっていた。
でも次の三者面談は、伊野ちゃん先生が来てくれるらしい。
嬉しいけれど、申し訳ないとも思う。
僕は、先生の子供じゃないから。
それなのに、先生を僕の�狄騰瓩砲靴討靴泙辰燭里世�ら。
侑李「普通って、なんだろ……」
多数派じゃないと、ダメなのかな？
僕も幸せなはずなのに、まるで不幸みたいじゃないか。
でも、普通の人からしたら僕も不幸に見えるんだろうな。
「おーい、侑李！」
後ろから名前を呼ばれて振り返ると、伊野ちゃん先生が手を振りながらこちらに歩いてきた。
伊野尾先生「もう帰るのか？」
侑李「うん。今日はいつもより早く帰って勉強しようかなって思って」
伊野尾先生「無理しないでよ？ 寂しくなったら連絡してね。遠慮なんかしなくていいし、一瞬で返信するから」
伊野ちゃん先生はわしゃわしゃと僕の頭を撫でてきた。
侑李「先生も、無理しないでね。寂しくなったら連絡してきても良いよ。すぐに返せるかはわからないけど」
先生は、「うぉいっ」と言って今度は軽く頭を叩いてくる。
伊野尾先生「今日はたぶん遅くなるから、先に寝てて。夜更かししたら怒るからな？」
侑李「うん。ちゃんと寝る。じゃあね、伊野ちゃん先生」
伊野尾先生「おう、気を付けて帰るんだぞ」
僕は、白衣をなびかせながら小走りする伊野ちゃん先生の背中を、少しの間見つめていた。
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作者名：J | 作成日時：2020年9月29日 14時
