JUMPの闘病生活。5 (ページ46)

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伊野尾先生サイド

風が吹いて、白衣がなびいた。

今まで何度も来た屋上。

いつもより景色が良く見えるのは、気のせいだろうか。

目を閉じると、昨日、侑李に頭を撫でられたときの感覚が蘇ってくる。

優しかったな。それでいて、強さも感じた。

目を閉じたまま、自分の頭を撫でてみたが、侑李のときのような心地よさはない。

伊野尾先生「侑李も、涼介も、大人になるんだよな……」

消えそうなほど小さな呟きは、空気にとけた。

初めて会った日からずっと、医者と患者として、共に病気と闘ってきた。

二人の年齢が一つ上がる度に成長を実感しているが、毎回悲しくなる。

伊野尾先生「寂しいねぇ……」

そう独り言つと、

「先生おじさんみたいだよ」

後ろから声が聞こえてきた。

伊野尾先生「涼介！ ……いつからいたの？」

俺は振り向かずに、前を向いたままの状態で訊く。

涼介は、俺の隣でニコッと笑った。

涼介「先生が来るより前から、向こう側にいたんだよ。有岡先生とね」

涼介が「ほら」と指差した先を見ると、大ちゃんがこっちに歩いてきているところだった。

有岡先生「涼介、あんまり動き回るなよ」

涼介「そんなに動き回ってないじゃん」

涼介の横に来た大ちゃんは、涼介の頭を軽く撫でてから、フェンスに両手を乗せた。

涼介は恥ずかしそうにうつむいて、「俺はもうそんな年齢じゃない」と言った。

有岡先生「別にいいじゃん。愛情表現の一種だよ」

大ちゃんは、涼介の反応を楽しんでいるようだ。

涼介「伊野尾先生。俺と侑李が成長しても、有岡先生は永遠のお子さまだから寂しくないでしょ」

涼介は、ニヤッと笑って大ちゃんと俺を交互に見た。

有岡先生「おい！なんだよ、もう……」

そう言っている大ちゃんの口元は緩んでいて、それに気づいた涼介は「先生って、ドＭ？」と真剣な顔で訊く。

有岡先生「俺は、どちらかと言えばＳ……たぶん。Ｍなのは伊野ちゃん」

伊野尾先生「ふぇ？」

涼介と大ちゃんのやりとりに急に巻き込まれて、思わず変な声が出た。

涼介「そっかぁ。伊野尾先生は猫派だもんね。Ｍだ」

伊野尾先生「いや、猫派だけどＭじゃないから。Ｓでもないけど」

涼介「じゃあ伊野尾先生がどっちなのかわかるまで、先生のそばで見てる」

伊野尾先生「涼介……」

俺の考えすぎかもしれないけど、もしかしたら、こいつは、俺に「寂しくない」と思わせたかったんじゃないかって。

そうだとしたら、俺は寂しがる必要はないな。