勝負１ ページ42
涼介サイド
有岡先生「そろそろ戻ろう。侑李が来る時間だよ」
涼介「そうだね」
何分くらい、ここにいたのだろうか。
一時間は経っていないと思うけど、結構長い間ここにいた気がする。
俺が歩き始めたのに合わせて、有岡先生も足を動かした。
有岡先生「屋上って、なぜか落ち着くんだよな。学生のときも、友達としょっちゅう学校の屋上に行ってた」
階段を下りたとき、突然先生が口を開いた。
涼介「なんか意外。先生って、たくさんの男子に囲まれて喋ってるようなイメージだったから」
有岡先生「まあ、普段はそうだったんだけど、たまに疲れたり、いろんなことがめんどくさくなったりしてさ」
疲れたり、めんどくさくなったり。
俺にはその感覚がわからない。
俺の�猗茲譴覘瓩筬猝姪櫃�さい�瓩蓮∩管�病気に対してのことだ。
副作用で疲れるとか、採血が面倒くさいとか。
でも、普通の中学生は、先輩・後輩や友達との関係に悩むんだろう。
有岡先生「涼介？」
涼介「え、あ、ううん、なんでもないよ」
有岡先生「あ、ごめん。興味ないよな、俺の学生時代のことなんて」
有岡先生は、本当に勘が良い。
それに、相手のことをいつも考えている。
今だって、「わからないよな」ではなくて、「興味ないよな」と言った。
俺が何を思ったか、気づいているはずなのに。
屋上に連れてきてくれたのだって、俺が窓から外を眺めていたところを見て、気を遣ってくれたのかもしれない。
もしかしたら、初めてあった日から、ずっと。
『院内学級においで』と誘ってくれたのは、入院したばかりで、誰とも話そうとしなかった俺と侑李に、友達ができるようにするため……。
売店で本を買ってくれたのは、退屈だと嘆く俺たちを見て……。
先生は、不安なときには寄り添ってくれて、一緒に悩んで、苦しんでくれた。
たくさんわがままを聞いてくれた。
俺たちがわがままを言った分だけ、先生は我慢してくれた。
きっと先生は子供の頃も周りを気にして、空気を読んで、気を遣って、我慢して、それに疲れたのだと思う。
涼介「先生みたいにはなれないけど、俺は少しでも先生に近づきたい。先生をお手本にしても、いいかな」
有岡先生「俺？ 別にいいけど、涼介はそのままでいいと思うよ？ モテる性格してる」
先生は、ふふっと笑った。
誰かのために、必死に生きる。
それが、有岡先生のため……いや、お世話になった全ての人のためにできる、最大の恩返しだ。
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作者名：J | 作成日時：2020年9月29日 14時
