勝負１ ページ32
侑李サイド
何度も来た無菌室なのに、今日はいつもと違う感じがした。
緊張で呼吸が早くなったから、部屋に入る前に深呼吸をして、呼吸を整える。
侑李「……よしっ！」
僕は、無菌室に足を踏み入れた。
まだ眠っている涼介。
そのとなりには、大ちゃん先生がいた。
有岡先生「おかえりなさい」
侑李「ただいま、先生。涼介も、ただいま」
僕は、涼介の頭をそっと撫でた。
薄い手袋のようなものをはめた手で。
侑李「頑張ったね、涼介」
僕が頭を撫でるのをやめると、涼介は、まるで何かを嫌がるように顔をしかめた。
「「涼介！」」と名前を呼ぶ大ちゃん先生と僕の声が重なる。
涼介は、ゆっくりと目を開けた。
涼介「……あ、俺……」
涼介の頬を、一筋の涙が伝う。
反対側からも、涙がこぼれる。
でも、涼介は、笑っていた。
涼介「……生き、てる……」
侑李「うん、生きてる」
有岡先生「そのとおりだよ。ありがとう、涼介。
りょうっ……ごめん。ようやく、楽に、自由、に、なれる、から……」
大ちゃん先生が震えて泣いている。
その様子が、滲んで見える。
涼介「せんせ……ありがと。侑李も、ありがとな」
侑李「うん、あのね、涼介。プレゼントあるから、ちょっと待っててね」
僕は一度無菌室を出る。
ずっと背負っていたリュックサックからメダルを取り出すと、キランと光った。
『消毒さえすれば、それ、涼介に渡していいぞ』
薮ちゃん先生の言葉を思い出しながら、僕はメダルを入念に消毒した。
無菌室に戻ると、涼介は「何してきたの？」と首をかしげた。
大ちゃん先生も、さっきに比べて少し落ち着いているようだ。
侑李「涼介。目、閉じて」
僕がそう言うと、涼介は瞼をおろす。
それを確認して、僕は、後ろに隠していたメダルをゆっくりと涼介の首にかけた。
大ちゃん先生が、「んっとに、おまえたちは……」と言いながら右手で顔を覆った。
でも、口角が上がっているのが僕には見えてしまった。
侑李「いいよ、目、開けて」
涼介は目を開けて、驚き、感動するように「わぁ」と言った。
侑李「僕たち、二人で勝ったんだよ！」
涼介「約束、とりあえずは、守れたね。
おめでとう、それと、ありがとう、侑李」
侑李「おめでとう、ありがとう、涼介」
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作者名：J | 作成日時：2020年9月29日 14時
