JUMPの闘病生活。5 (ページ30)

今日:4 hit、昨日:2 hit、合計:86,692 hit

勝負１ページ30

有岡先生サイド

仕事が終わって手術室の前の椅子で待っていると、伊野ちゃんが手術室から出てきた。

ガクッと崩れるように前のめりになった伊野ちゃんを、受け止めて支える。

有岡先生「……大丈夫？」

伊野尾先生「やっと終わった……。なんか、長くて、短くて、もう覚えてないや……」

有岡先生「ありがとう。伊野ちゃん、ありがとう」

伊野ちゃんが涼介の体にしたことを、正確に想像することはできない。

でも、大切な人の体をきり、血が流れるところを見て、
それでも手を突っ込んで移植を続けるのは、大変なことだとわかる。

「ありがとう」だけでは足りないくらいだ。

伊野尾先生「これで、あとは、侑李だけ。侑李が勝ってくれてたら、涼介は、幸せがようやく手に入る」

有岡先生「そうだな。二人を信じよう」

伊野尾先生「うん。俺、まだ仕事あるから、行かないと。大ちゃん、涼介のとなりにいてやって」

有岡先生「涼介のことは、大丈夫だから。起きたら、連絡する。あまり無理すんなよ」

伊野尾先生「うん、連絡よろしくね」

伊野ちゃんは、少しだけ微笑んで、廊下を進んでいった。

侑李のときもこんな風になっていたな、と思い出した。

いつものヘラヘラしている伊野ちゃんが、真面目で、しっかりしていて、頼もしい、〝立派な医師〟になる。

いつ、こんなにも差がついてしまったのだろうか。

少なくとも、大学に入った頃は、一緒だったはずなのに。

みんなが強かった。

いや、俺が弱かっただけなのかもしれない。

有岡先生「涼介……」

なぜ急にこいつの名前が出てきたのか、俺にもわからない。

わからないまま、俺は廊下を伊野ちゃんが消えていったほうへ歩く。

涼介、目を覚ましたら、どんな反応をするのかな。

悲しくて泣くわけでも、悔しくて泣くわけでもなく、
嬉し泣き、できるのかな。

まあ、あいつのことだから、

きっと、笑うんだろうな。