勝負 ページ14
伊野尾先生サイド
侑李「涼介、どう？」
部屋着に着替えてリビングに戻ると、ソファの上で体育座りをしてテレビを見ていた侑李が突然訊いてきた。
伊野尾先生「検査の結果はいい感じだから、安心しろよ」
侑李「移植、絶対受けられるの？」
伊野尾先生「あぁ」
俺は侑李の隣りに座った。
「それならいいや」と侑李がテレビに視線を戻したから、俺もテレビを見る。
ドラマだった。
病院の話みたいで、小学生程度の主人公の病室には見慣れた器具が並んでいた。
侑李「あの子、移植受けられないんだって」
侑李がテレビを見たまま言う。
なんだ、そういうことか。
伊野尾先生「不安になっちゃった？」
侑李「この子も白血病でさ、いろいろ重なっちゃうんだ」
伊野尾先生「涼介は、頑張ってるよ」
俺がそう言うと、侑李は「そう」と口角をあげた。
伊野尾先生「だから、来てやれよ。病院」
俺の言いたいことは、それだけだった。
涼介が無菌室に入った頃から、侑李は病院に顔を見せなくなったのだ。
侑李「涼介は、弱っている自分を見られたくないと思うよ」
伊野尾先生「それでも、やっぱりさ、涼介にとって侑李は精神的な支えになると思うんだ」
侑李「そんなの涼介じゃないとわからない」
伊野尾先生「でも……」
侑李「僕は、行けないよ」
侑李はきっぱりと言いきった後で、「悪いけど」と付け足した。
伊野尾先生「そうか、じゃあ、今のは忘れてくれ」
侑李「行った方が、涼介に辛い思いをさせちゃう気がするんだ。涼介が僕に会いたいって言ったら行くけど」
伊野尾先生「わかった、ありがとう」
自分も体験したからこそ、侑李には、わかるのかもしれないな。
患者の気持ちが、涼介の気持ちが。
白血病になったことがない俺にはわからないけど。
伊野尾先生「これ終わったら歯磨いて寝ろよ」
長い沈黙が気まずくなって、適当にそう言った。
侑李「うん」
侑李はテレビから視線を移さずに返事をしたが、小さく頷いたときにポロっと雫が落ちた気がした。
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作者名：J | 作成日時：2020年9月29日 14時
