光と闇 ページ37
有岡先生サイド
有岡先生「どうしたの? 伊野ちゃん」
隣で深刻な顔をしている伊野ちゃんに話しかける。
伊野尾先生「涼介、ドナー見つからないからさ」
有岡先生「涼介たちのお母さんは? くれないの?」
伊野尾先生「ダメだ。妊娠してるってさ」
有岡先生「は? 妊娠?」
妊娠している人は、ドナーにはなれない。
それは、昔からしっかりと理解していた。
有岡先生「ってか、何で伊野ちゃんがそんなこと知ってるの?」
伊野尾先生「会ったんだ、涼介たちのお母さんに。学生時代の友人とか、ツテを使いまくって」
胸を張ってそう言う伊野ちゃんに、俺は若干引きつつも「すごいですね」と言ってやる。
伊野尾先生「良い人だったよ、意外と。最初は叱ってやろうって思ってたけど、あまりにも良い人だったから、何か複雑な気持ちになった」
有岡先生「……どこが良い人なんだよ」
俺のいつもより低い声に、伊野ちゃんは驚いたような顔をする。
有岡先生「あいつらを見捨てたんだ。それに、新しい子までつくって幸せになろうとしてる。良い人なんかじゃない。自分が産んだ子にも愛情がないんだよ?」
伊野尾先生「うん、2人を捨てたのは、俺も許してはいけないと思ってる。でもね、大ちゃん」
伊野ちゃんは一息おいてから、こう言った。
伊野尾先生「愛情があるから、2人を捨てたんだ」
有岡先生「……どういうこと?」
伊野尾先生「父親は犯罪者だった。それに、母親の方は精神疾患を患っていたから、不安定だったんだ」
犯罪者の親を持つ子供が虐められるというのは聞いたことがある。
有岡先生「それでも……」
それでも、離婚して、シングルマザーとして2人を育てることが出来たはずだ。
いくら精神疾患があったとしても。
伊野尾先生「涼介たちには、この事は言わない。でも、移植できる可能性が減ったということは、大ちゃんに知っていてほしかったから」
伊野ちゃんの目の奥が、キラリと光った。
ときどき上を見たり、唇を噛んだり。
有岡先生「大丈夫だよ、誰か見つかる。涼介は死なないから」
伊野ちゃんは、ギュッと拳を握った。
俺たちとは正反対の、雲ひとつない青空が、鬱陶しかった。
183人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:J | 作成日時:2020年5月20日 11時