検索窓
今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:93,694 hit

光と闇 ページ37

有岡先生サイド

有岡先生「どうしたの? 伊野ちゃん」

隣で深刻な顔をしている伊野ちゃんに話しかける。

伊野尾先生「涼介、ドナー見つからないからさ」

有岡先生「涼介たちのお母さんは? くれないの?」

伊野尾先生「ダメだ。妊娠してるってさ」

有岡先生「は? 妊娠?」

妊娠している人は、ドナーにはなれない。

それは、昔からしっかりと理解していた。

有岡先生「ってか、何で伊野ちゃんがそんなこと知ってるの?」

伊野尾先生「会ったんだ、涼介たちのお母さんに。学生時代の友人とか、ツテを使いまくって」

胸を張ってそう言う伊野ちゃんに、俺は若干引きつつも「すごいですね」と言ってやる。

伊野尾先生「良い人だったよ、意外と。最初は叱ってやろうって思ってたけど、あまりにも良い人だったから、何か複雑な気持ちになった」

有岡先生「……どこが良い人なんだよ」

俺のいつもより低い声に、伊野ちゃんは驚いたような顔をする。

有岡先生「あいつらを見捨てたんだ。それに、新しい子までつくって幸せになろうとしてる。良い人なんかじゃない。自分が産んだ子にも愛情がないんだよ?」

伊野尾先生「うん、2人を捨てたのは、俺も許してはいけないと思ってる。でもね、大ちゃん」

伊野ちゃんは一息おいてから、こう言った。

伊野尾先生「愛情があるから、2人を捨てたんだ」

有岡先生「……どういうこと?」

伊野尾先生「父親は犯罪者だった。それに、母親の方は精神疾患を患っていたから、不安定だったんだ」

犯罪者の親を持つ子供が虐められるというのは聞いたことがある。

有岡先生「それでも……」

それでも、離婚して、シングルマザーとして2人を育てることが出来たはずだ。

いくら精神疾患があったとしても。

伊野尾先生「涼介たちには、この事は言わない。でも、移植できる可能性が減ったということは、大ちゃんに知っていてほしかったから」

伊野ちゃんの目の奥が、キラリと光った。

ときどき上を見たり、唇を噛んだり。

有岡先生「大丈夫だよ、誰か見つかる。涼介は死なないから」

伊野ちゃんは、ギュッと拳を握った。

俺たちとは正反対の、雲ひとつない青空が、鬱陶しかった。

光と闇→←光と闇



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (72 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
183人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:J | 作成日時:2020年5月20日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。