家族と相棒 ページ21
有岡先生サイド
点滴を繋ぎ終わってすぐ、涼介は眠ってしまった。
心電図に異常はないから、ただ眠いだけなのだろう。
俺も裕翔も、何も言えず、沈黙が続く。
何分後かに沈黙を破ったのは、裕翔だった。
裕翔「涼介、いつからこんな感じなの？」
有岡先生「最近かな」
裕翔「こんなに悪化してたんだね」
有岡先生「……うん」
裕翔「死んじゃうの？」
有岡先生「……わかんないよ、ごめん」
本当は、そんな言葉じゃなくて。
「絶対治す」と断言したかった。
絶対に大丈夫だから、と。
でもそれは、できなかった。
少し前ならそう言っていたかもしれないけど、今はもう死んでしまう確率の方が高いのだ。
謝ることしかできない自分に改めて無力さを感じた。
―――――なんのための勉強だったんだよ
俺が医者を目指したのは、誰かを助けたかったからだ。
そのために勉強をして、100冊以上もある医学書を読んで。
それなのに、今目の前で苦しんでいるたった１人の子供さえ、救ってやれない。
裕翔「無理させちゃってたのかな」
その声には、罪悪感がにじんでいた。
裕翔が自分に責任を感じるのは、少し違う気がする。
裕翔「俺ね、引っ越すことになると思う」
裕翔はゆっくりと話し出した。
その声は小さくて、少し震えていた。
裕翔「もともと、結構引っ越し多くてさ。聞いちゃったんだ。夜、母さんと父さんがもめてた。母さんはまだここにいたいって言ってて、父さんは転勤だからって言ってた」
有岡先生「いつなのかわかる？」
裕翔「わかんない。でも、会えるときに会っておきたかったから、今日は来たの」
そういうことだったのか。
裕翔は、涼介と侑李に会えなくなる前に、少しでも長い時間を共有しようとしてくれたんだ。
裕翔「でも、俺が涼介に無理させちゃってる。それなら、来なければ良かったかもね」
有岡先生「そんなことはないよ」
裕翔「……あるんだよ！ 全部俺のせいなんだよ！ ……俺、どこにいればいいんだろ……」
裕翔の右目の端から、涙が溢れた。
骨髄穿刺の痛みにも耐えた裕翔の涙は、それだけ気持ちが強いことを物語っていた。
有岡先生「どこにでもいていいんだよ」
俺がそう言うと、裕翔は泣き止んだ。
もともとそんなに泣かないタイプなんだな、と思った。
俺だって、自分の居場所がないと思ったことがある。
そんなとき、居場所を作ってくれる人に出会えるはずだ。
裕翔にもそんな人が現れますように、と心の中で願った。
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作者名：J | 作成日時：2020年5月20日 11時
