JUMPの闘病生活。2 (ページ27)

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医者に必要なものページ27

有岡先生サイド

道枝が泣きそうになっている、ということは、その様子から伝わってきた。

拳をギュッと握って、唇を噛んで、それでもしっかり俺を見ていた。

その姿は、不思議と涼介を彷彿させた。

有岡先生「誰だって、知ってる人が倒れたら怖いよ。ごめんな。俺のせいで、嫌な思いさせちゃったな」

道枝先生「そんなことは……」

有岡先生「道枝は、〝患者が亡くなっても怖くない人〟のことを、〝いい医者〟だって思ってるのか？」

道枝先生「……はい」

有岡先生「えっと、それは、違うと思うよ？確かに、誰か1人の患者さんのことをずっと引きずっているのはあまりよくないかもしれないけどね」

そう、昔の俺みたいに、亡くなった人のことをずっと考えているせいで、今いる患者さんや仕事に支障が出るのはいけないことだ。

有岡先生「でも、誰かが亡くなってもなんの感情もわかない人は、〝仕事ができる医者〟だけど、〝人としていい医者〟ではないから」

研修医の頃に、７歳の男の子が亡くなったとき。

泣いていたのは、俺だけじゃなかった。

伊野ちゃんだって、声をあげて泣いていた。

先輩たちが、「しょうがないことだから」と言って、その日もいつもと変わることなく仕事をしていたのを見て、俺たちはあんな風にはなりたくない、と思ってしまった。

有岡先生「〝いい医者〟ってのは、悲しんでもいいけど、怖くてもいいけど、前を向ける医者なんだよ」

伊野ちゃんみたいなお医者さんのことだよ、と心のなかで付け加えた。

道枝先生「そう、ですよね」

今まで真剣な表情で、俺のながーい話を聞いていた道枝が、ようやく口を開いた。

道枝先生「有岡先生って、人を元気にさせる力がありますよね」

道枝は、笑っていた。

有岡先生「そうならよかったよ。仕事するかぁー」

道枝先生「はい」

俺たちはまた、パソコンのキーボードを打ち始めた。

そのときだった。

「有岡せんせー！」

部屋の扉をコンコンと叩く音とともに、聞きなれた声が聞こえてくる。

扉についているガラス製の窓から、ちらっと涼介の顔が見えた。

有岡先生「おう、涼介。昨日はありがとな」

涼介「どーいたしまして。ねぇ、先生、一緒に来て」

有岡先生「あ、でも今日は、ちょっと、忙しくて」

道枝先生「いいですよ。俺、やっときますよ」

有岡先生「でも……」

道枝先生「やらせてください」

有岡先生「ごめん、じゃあ、お願いします。今度おごる！」

俺は涼介につれられて、部屋を出た。