拝啓、画面越しの貴方へ《上》 ページ4
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口下手鈍感すぎて自分の気持ちも敦君の気持ちにも気付かないやつがれと、片想いを忘れるために未練タラタラだけどやつがれを避けようとする敦君。↓どうしてこうなった。
『……なあ、芥川』
電話口から、人虎の弱々しい言葉が零れる。
「何だ」
『もしも──』
──もしも僕が居なくなったら、探し出してくれる?
「……何故僕がわざわざ貴様を探してやる必要があるのだ」
『……そっか。そうだよなぁ、うん。お前に限って、そんな事は……ないもんな』
此奴は今更何を判りきった事を云うのだ。今こそ仕事上友好的に接しているだけであり、本来の僕らの関係は敵だ。それ以前に此奴は太宰さんに認められた腹立たしい存在であり、今すぐにでも殺してやりたい。
以前にも増して、人虎の存在が憎たらしい。同僚に笑いかける呑気な横顔に怒りで胸がざわめくし、物云いたげな瞳で此方を見てくるとめちゃめちゃに壊してやりたくなる。
一挙手一投足が癇に障る。情を湛えた表情が、細い身体が、その全てが心を揺れ動かす。
憎い。腹立たしい。許し難い。有り得ない。理解出来ない。
……襲いたい。引き裂きたい。壊したい。殺したい。
欲しい。
「──?」
如何云う事だ?
──欲しい?
人虎をか?
「……有り得ぬ」
己の中に湧いた欲に、頭を振る。人虎を欲しがるなど以ての外だ。僕が殺した後の死体ならまだしも、煩わしいだけの彼奴など、勝手に囀らせておけば善い。
『芥川……』
「──っ」
だと云うのに。何故だ。何故、此奴の声を聞くだけで、こんなにも心を乱されるのだ。息が詰まるのだ。──人虎の、中島敦と云う男の全てを暴きたくなるのだ。
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作者名:通りすがりの腐女子B | 作成日時:2019年10月10日 1時