不知火《上》 ページ1
***
何処か遠くで爆発が起きた。
いずれは此処も炎に飲み込まれるだろう。早く逃げなければならない事は判っているのに、怪我を負い過ぎた躰は思うように動かない。
仕事は上手くいった。豪華客船に忍び込んだ無法者は皆捕らえたし、依頼人や乗客もすでに避難済みだ。最後に連れ出そうとした犯人が、苦し紛れに火を放っていなければ、全てが上手くいっていたのに。
犯人を待機していた太宰らに引き渡し、自分らも逃げようとしたところ、大きな爆発が起きて意識を失った。
次に芥川が目を覚まして視覚に飛び込んだのは、燃え盛る船内と火傷を負って呻く敦だった。自身も酷い火傷を負っていたが、それよりも逃げなければと思い、苦しそうな敦を抱えて火の手から逃げた。
しばらく進んだのち目を覚ました敦が、今度は敦を抱えて進んだ事で疲労した芥川の肩を抱えて歩き始めた。脳内に船内の地図を描き、近くて火の手も弱い脱出口に向かった。
敦に肩を担がれながらも、芥川は自分も足を進める。
目の前が霞む。意識は今にも消えてしまいそうだ。それでも必死に前に進むのは、隣に居る存在が支えてくれるから。
「芥川っ……!もう少し、もう少しだけ耐えるんだ……!」
敦が芥川の肩を抱き、支えながら脱出口へと向かう。自分も相当傷を負っているはずなのに、此方を気遣って力強く鼓舞してくる。
出会った頃は殺し合いばかりしていたというのに、随分と絆されたものだ。
それは自分とて変わりない。芥川にとって、敦は最早離れられない半身のような存在だ。
二人で居るから、どんな敵にも臆せず戦える。辛い過去も乗り越えられる。互いの気持ちを理解できる。
友人や相棒、恋人や好敵手なんて言葉では表せない。敦が居るからこそ芥川は芥川で居られるし、またその逆も然りだ。
パズルのピースが嵌って一つの絵が完成するように、芥川と敦は互いに足りない部分を埋め合う存在だった。
先代“双黒”の太宰と中也は《双つ“の”黒》だったが、自分達は少し違う。二代目“双黒”の芥川と敦は《双つ“で”黒》だ。何方かが欠けてしまえば、意味を成さない関係。
「もう、少しだ……!」
敦の言葉に僅かに希望が宿る。芥川が霞む視界を凝らして見れば、脱出口から溢れる光が見えた。
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作者名:通りすがりの腐女子B | 作成日時:2019年10月10日 1時