アカシャ・クイール (ページ5)

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自分の足音だけが森に響く。人々の話し声は、もう聞こえない。私の陰口だって。
そんなことを考えるなんて、かなり精神が参っていたのだと自覚する。

しばらくは、朝陽のきれぎれに差し込む森の風景を楽しみながら進んでいた。時折、鳥の声も聞こえるようになってきた。

久々に人里離れた場所に来たな。子供の頃の訓練以来だ。まぁ、その時のような切羽詰まった感じはあまり無いけれど。

これからのことや、今ごろ騎士寮はどうなっているだろうと考えていると早いもので、森の切れ目が見えた。

……いや、違うな。空き地だ。
まだその先に森は続いている。

鏡のような湖を中心に、様々な色、香りの花々が咲き乱れている。差し込む光は金糸のようだった。

「綺麗だ…」

思わず声が漏れるほどの美しさ。この光景をいつまでも留めておける道具はないものか。

はらり、はらりと色づいた葉が湖面を彩り、すーっと流れていく。
花を踏みつけないようにしながら、私は湖のほとりにある苔むした岩に座った。
水が、本当に澄んでいる…

底を探すようにしていると、きらりと、光る物があった。なんだろうか。
きらきらと光るばかりで、それがなにかはわからない。気になったから、なんていう浅い理由で、できるだけ薄着になって、私は湖に潜ってみた。

空気の泡が、ゆらゆらと上へ上がっていく。
底までは、なんとか息がもちそうだ。速度を少し上げ、一気に底までたどり着く。
…ペンダントだ。

きらきら光っていた物の正体は、三日月形をした、ペンダントだった。
硝子で出来ており、中は空洞になっているようだ。

観察しているうちに息が苦しくなってきたので、湖面へ浮かびあがる。
光の下で見ると、さらに綺麗だった。

「…ん？」

中に何か入っている。透明な、何か。
出せるようなところはなくて、振っても、りんと音をたてるだけ。

騎士団にいた頃なら、落とし物として届けていただろう。だが、今は自由の身。
少しの悪あがきとして、自分の物として持っていくことにした。
屑だな、私。
自己嫌悪感は残るようだ。

岸へ上がり、濡れた服を絞り、日向にひろげる。
乾いたローブを羽織り、岩の上に腰かけ、ペンダント観察。

……ただ、湖の水のように澄んでいて、中に何か入っている、としかわからなかったが。
首ひもの部分は、金の目の細かい鎖だった。
光に透かしてみたり、逆に影に持っていったり。
結構楽しかった。