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「じゃあ、ずっとひとりなんですか？」
赤葦の問いに彼女は首を振る。
「そういうわけではないんだけど、君みたいに律儀に来てくれる子は少ないかな。まあ、図書委員なんて、学校行事にも関われない、つまらない委員会だからね」
本に貼られたバーコードを読み取る機械の音が二人だけの教室に響く。掃除の暇つぶしついでに交わしあった雑談の中で、赤葦が彼女について知ったことがいくつかある。
まず、彼女が先輩だということ、自分と同じ図書委員の仕事をずっと三年間やり続けているということ。それからあんまり図書委員がこの仕事をやりたがらないこと。
最後のことに関しては仕方がないと彼女も諦めていた。だから最初見た時「珍しい」と口走ってしまったのだと、可愛らしい謝罪も受けた。
「本当は赤葦くんだって来るとは思ってなかったのよ？」
「そう、なんですか？」
「ええ。だって君バレー部でしょう？ 昼休みの部活の練習は禁止だけどほら、先輩のパシリだったり、後輩のイビリだったり、そういうのに忙しいかなって」
「……先輩バレー部嫌いなんスか」
「嫌いではないけど、好きの部類には入らないわね」
そしてなにより、バレー部をあまり好きではないことも知った。
けれど、そのくせ赤葦のことに関しては詳しい。
名前も、クラスや学年、出席番号まで。
いったいどこで調べたんだと問い詰めれば、面白そうに彼女は笑う。
「あなた、有名人よ、知りたくないって思っても勝手に入ってくるんだもん。過激な女の子たちに住所とか割り出されないように気を付けた方がいいと思うわ。先輩からの助言」
「……物騒なこと言わないでください」
心底嫌そうな顔をした赤葦を可愛いと揶揄う彼女の笑顔に、また心臓が熱を持つ。
「それにしたって、赤葦くんって物好きよね。どうして図書委員なんて選んだの？ あなたなら、体育員の方が向いてるでしょうし、一度決めたら来年まで変えられないのに」
「元々委員会なんて入るつもりなかったんですけど、居眠りしてる間にいつの間にか決まってて」
「あら、優等生の赤葦くんも居眠りするのね。ご愁傷さま」
トントン、と本を揃えて彼女が大きく背を伸ばす。時計の針ももう予鈴の前まで来ている。そろそろこちらも切り上げようとファイルを棚に戻したところで、ふと先輩の言葉が頭に浮かんだ。
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ふじの - 百合郷さん» 百合郷さん、コメントありがとうございます。嬉しい言葉の数々に感情が胸を巡りゆくばかりです！私も百合郷さんの作品拝読しておりました。正当世界の言葉の巧みさ美しさには簡単な息が漏れるばかりです。 (2019年11月10日 10時) (
レス) id: ed38d3094c (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 完結、お疲れ様でした！題名に惹かれて以降、こっそりと拝読しておりました。言葉だけの表現では限界があり、全てをお伝えすることは叶いませんが、本当に心揺さぶられる物語でした。日本語の美しさや儚さが、より一層引き立てられる文章ですね…。 (2019年11月10日 0時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ふじの | 作成日時：2019年11月2日 22時
