・ ページ14
.
卒業生たちのはしゃぐ声がとても遠くに聞こえる。
「俺は今までもこれからも、何かに熱中することはないんだと思います」
「うん」
「バレーボールが全てだった。あの人達と一緒に在るコートが全てでした」
「うん」
「でも、」
優しい相槌が止まった。
涙はまだ止まることなく流れているが、それがもう床に落ちることはない。
本人の了承も得ず、ただ押し付ける。
あなたのせいだと傲慢に強欲に。
「今は、そんなことないです」
木兎に初めてトスを上げたあの瞬間。あの人の行先を共に征きたいと願っても、叶わないのだと実感して手放した夢。それはもう二度とつかめることは無いだろう。自分が東京で、日本で、世界で、どれほど平凡なセッターであるかはよく理解した。
理解して、いいこちゃんで手放した。
どうしようもないとわかっていたから諦観できた。
でも、今は違う。
「一つだけ、あります。バレーボールより上にあるもの」
「そ、れは……」
聞いたこともない、か細い声だった。
「私が聞いてもいいのかしら」とこもった声が耳元の近くで解けた。
「いいです。それが先輩にあげる
赤葦京治が見繕った感情の。
赤葦京治が理不尽に抱いた憤りの。
赤葦京治が押し殺した願望の。
その答えは誰のためでもなく、あなたのために。
あなたが少しでもそれを望んでくれるのなら。
俺は何度だって、何度だって告げてやる。
───もう二度と戻れない諦めないために。
.
11人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ふじの - 百合郷さん» 百合郷さん、コメントありがとうございます。嬉しい言葉の数々に感情が胸を巡りゆくばかりです!私も百合郷さんの作品拝読しておりました。正当世界の言葉の巧みさ美しさには簡単な息が漏れるばかりです。 (2019年11月10日 10時) (レス) id: ed38d3094c (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 完結、お疲れ様でした!題名に惹かれて以降、こっそりと拝読しておりました。言葉だけの表現では限界があり、全てをお伝えすることは叶いませんが、本当に心揺さぶられる物語でした。日本語の美しさや儚さが、より一層引き立てられる文章ですね…。 (2019年11月10日 0時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ふじの | 作成日時:2019年11月2日 22時