3.さよならの季節 ページ11
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冷たい風は暖かなものへと変わり、太陽も少しだけ近くなる煩いの頃。梟谷学園へと続く一本道には小ぶりの花が芽を出して、生徒たちへ振り向かれない神秘を贈る。
季節というものはあっけなく過ぎていくものだ。
たとえ、どれだけ願いを込めたとしても。
たとえ、時計の針を止めたとしても。
当たり前を当たり前と認める前に、世界は容易く想いを攫って嘲笑う。
辻褄の合わない感情がぶつかり合い爆ぜていくこの季節は、何度経験しても好きにはなれない。どちらの立場に立とうとも、未消化の感情はいつだって置いてきぼりを喰らっていた。
それは、今この場所。涙と笑顔、希望と悲観が包む場でも変わらない。
その胸に小さな花が咲いてしまう瞬間を一体何度呪っただろう。
「ここにいたんですね」
その花が散る時、俺は、何を思い生きるのだろう。
「卒業おめでとうございます。雨利先輩」
揺れるカーテンに身を隠して居たその人に、少年は静かに声をかけた。
出会った時と同じように本を持った彼女が振り返る。その胸には何度も呪った花が咲き誇り、未来の可能性を謳う。
「ありがとう、赤葦くん」
嬉しそうに彼女は笑った。
何度も何度も練習した、苦楽を共にした先輩たちを最後の土台にしたそれは、きちんと意味を渡せたらしい。カーテンの裏から出てきた彼女が何事もないように話し出すのを、赤葦は待つ。
「私がここにいるってよく分かったわね」
「先輩ならここに来るかなと思って」
「あら、行動読まれてたのね。不覚だわ」
「先輩は何やかんや行動、単純ですから」
「失敬な。……で、赤葦くんはここにいていいの？」
「それは先輩も同じでは？」
赤葦の言葉に私はいいのよ、と首を振った彼女はそっと本を机に置く。何かを思案するように表紙の上でぎゅっと握られた拳は解かれることなく、言葉だけが紡がれた。
「部活の先輩たちへの挨拶は済んだ？」
「はい」
「そう、よかった。終わってないのにあなたがここにいたら、あいつに何か言われそうだから」
「さすがに何も言わないですよ。先輩だって、今日は主役なんですから」
「今日だけよ。私は主役の役名だけを貰った少しランクが上の脇役になるだけ。アイツみたいに皆からおめでとうなんて言われないし、なーんにも変わらないわ」
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ふじの - 百合郷さん» 百合郷さん、コメントありがとうございます。嬉しい言葉の数々に感情が胸を巡りゆくばかりです！私も百合郷さんの作品拝読しておりました。正当世界の言葉の巧みさ美しさには簡単な息が漏れるばかりです。 (2019年11月10日 10時) (
レス) id: ed38d3094c (このIDを非表示/違反報告)
百合郷(プロフ) - 完結、お疲れ様でした！題名に惹かれて以降、こっそりと拝読しておりました。言葉だけの表現では限界があり、全てをお伝えすることは叶いませんが、本当に心揺さぶられる物語でした。日本語の美しさや儚さが、より一層引き立てられる文章ですね…。 (2019年11月10日 0時) (レス) id: 24caafd982 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ふじの | 作成日時：2019年11月2日 22時
