命短し恋せよ乙女【オーバーホール】 (ページ3)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:10,970 hit

尊い子ページ3

「治崎さん」

無言の時に終止符を打ったのは彼女からだった。

続けてこう言った。

「貴方が苦しいと私も苦しい。」

「あのね、貴方が私に対して負の感情をぶつけることは全然構わない。それは今の治崎さんには必要なことだから、

ただ、私は貴方の敵ではないし争う相手でも無いわ」

「それは、、俺レベルじゃあんたに及ばないから
「それは違う」」

俺の言葉に被せた彼女の言葉は重く静かな悲しみで溢れていた。

「知識というものは人と比べるものではないし、またどちらが劣っている秀でているという価値基準になるものでも無い。

貴方は今まで周りに比べてたしかに優秀だった。
だけどね、

この世に本当の意味で頭の悪い人はいないの、ただ脳の使い方を、知識を振るう方向を間違えているだけ。」

「だから私、どちらの方が頭が良いかなんてどうしようもなく悲しい理由で貴方と仲良くなれないのは辛い。

何よりそんな悲しい理由で貴方が苦しむ必要は無い」

そして彼女は俺の目を真っ直ぐに捉えてこう言った。

「どうしてそんな辛いことを自らに課しているの？」

その瞬間、どうしようもなく涙が出た。

自分でも形容し難い何かが思わず溢れ出た。
悲しみや、苦しみや、辛さが、、心に押し留めていたドロドロした黒い感情が涙となって溢れ出て溶けていった。

そんな俺に彼女は静かに隣で背中をさすってくれた。

彼女はわかっていたのだ。俺の本音を。

わかった上で俺に何事も無いように接して、俺がぶつける負の感情を甘んじて受け止めてくれていたのだ。

その優しさと、俺の苦しみを溶かしてくれた言葉にただただ敵わない人だと思った。

そしてやっぱり天使のような人だと思った。

ひとしきり溢れ出る何かを出し切った俺は鼻をすすりながら彼女に問うた。

「なんで………そんな温かい言葉を、俺なんかにかけるんですか、」

すると驚いたように目をパチクリさせ言った

「治崎さんは尊い人だから」

そんなこと初めて言われた。
日の当たらない暗い世界を生き、人に誇れることは何もしていない。挙句に汚い感情を吐露した俺に対し

「なんでそんなことを言えるんだ」

「……分かるよ。治崎さんが初めてうちの門をくぐったときから、貴方は私の大切な存在なんだよ」

そしてカラッと笑ってこう言った。

「家族ってそーゆもんでしょ」