命短し恋せよ乙女【オーバーホール】 (ページ11)

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茎ページ11

もし治崎廻に人生の分岐点を問うたならきっとこの時のことを答えるであろう。
それは彼の最も大事なものが目の前で消え、自身の非力さを自覚させ奇しくも治崎の中に命に対する繊細な感受性を生み出したのだから。

・

「組長！今しがた学校から連絡があり、お嬢が倒れ救急車で病院に運ばれたそうです…意識が昏睡状態にあるようで…」

その知らせは組長や治崎をはじめ多くの組員に激震を走らせた。不安を感じさせる声が徐々に増していく。
そこに組長が鶴の一声をあげた。

「静かにしろ。俺は今すぐそこに向かう、車を出せ。他のものは各自仕事に戻れ。」

そして我に帰ったように組員たちは散らばり、持ち場に帰っていった。
ただ一人治崎を残して。

「親父…でしゃばった願いなのは重々承知の上だ。頼みます、俺も…連れてって欲しい。」

治崎の顔には影がかかり、表情は見えない。しかし、声が酷く震えていた。そんな息子を組長は冷たくあしらうことは無かった。出来なかった。

「…分かった。すぐ出るから準備しろ。」
「、！ありがとうございます」

・

しかし組長はAの元にいき、すぐに後悔した。
Aは静かに機械的な呼吸を繰り返すのみで、微動だにしなかった。静かな恐怖がその場を食い荒らしていた。
組長の心はそれは冬の日本海のように荒れた。側にいてくれた唯一の肉親が今ではどこか遠くに旅立ってしまった感覚に陥った。
そして同時に、治崎をこの場に連れてきてしまったことを後悔した。

しかし存外、治崎の心は組長とは反対に凪だった。それはそれは静かなものだった。人間、本当に信じたくない最悪の状況を目の前にすると一周回って逆に落ち着くもんだなと思っていた。

昨日まで花のような笑みを称え、世界に祝福されていた少女が今日は世界から隠れるように静かに眠っている。

「大変申しあげにくいのですが、お嬢様は只今植物人間の状態であられます。」

重苦しい空気の中、医者が今更申し上げたとて治崎は既に理解していた。彼女が草木に近い存在になったことを。
彼女は、Aは例え蒔いても育っても仙人草になったのだ。咲いたと思えば瞬時に枯れ堕ちていく仙人草に。

その瞬間どうしようもない無力さと、非力さと神に対する怒りが一気に治崎の体を蝕んだ。

何故だ。何故彼女なのだ。何故彼女を選んだのだ。
連れていくならもっと相応しい悪人が世の中にはごまんといる。何故彼女を連れていった。何故だ。

何故俺からAさんを奪ったのだ。