命短し恋せよ乙女【オーバーホール】 (ページ2)

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聡い子供たちページ2

治崎廻は自身の頭の出来の良さを自覚していた。並びにそもそもの地頭が良いことも。

孤児院の子供達の行動や会話は稚拙なもので、自身とのレベルに見合っていないと少々天狗になってもおかしくはない程だ。

しかし治崎はAを前に初めての挫折、自身より格上の知能をもつ存在に出会った。

別に専門的な知識を問う難しい内容の会話を交わしたわけではない、しかし分かるのだ。

組員との日々の何気ない会話の端々や、彼女の人との付き合い方や距離感の働き方。そして何よりもその場の空気の流れを若干10歳の子供が掌握し作り出している。

頭の回転の速さが異常なのだ。

そんなAに治崎はなんて聡く恐ろしい少女だと恐れた。
同時に同い年の少女に恐れなす自分に腹が立ち、行き場のない怒りからAに敵視を抱いてしまった。

だがそんな治崎に対しAはあえてスルーした。

明らかに自身に対して負の感情を抱いている少年に、普通に接したのだ。

治崎は憤怒した。

Aの対応はまるで反抗期の子供に対する母親のそれと同じではないか。
舐められている、？格下に見られている、？悔しい、、なんでだ、、悔しい、、

心の中は冬の日本海のようにそれはもう荒れ狂って、自分でも手がつけられなくなっていた。

__________

Aに対して言いようのない格好悪い感情を抱いている自覚はあった。
そしてそんな自分が一番嫌いで自己嫌悪に陥っている自覚もあった。

だがどうしようもないのだ。苦しくて悔しい。
そんな心と共に日々を過ごしていた。

だがある夜にAとすれ違った。

彼女は縁側に座り梅の花を見つめていた。
俺はいつも通り頭を下げて挨拶し、そのまま素通りをしようとした。

だが彼女に呼び止められた。

「ねぇ、治崎さん」

俺はどうしようもなく無視したくなった。部屋に帰りたくてしょうがなくて、ぶっきらぼうに返事をした。

「……何か、？」

すると彼女は困ったように笑い、隣に座れとでも言うように床板をポンポンとかるくたたいた。

「お願い、少しだけで構わないからお話しよう？」

本当は嫌だった。彼女と交わす言葉なんか何も無くその場から離れたかった。
だけどここで座らなかったら負けた気がするのだ。

男の矜持だ。

「……分かりました」