月に憧れて。【天/月】

2＊天宮くん。 ページ3

天月くん、
…………天宮くんは、私の斜め前の席だった。

あ行の人が他にいなくて、彼は出席番号1番。廊下側の隅、1番前に座っている。


私はというと、2列目の前から2番目。安定の「草壁」ポジションについて、緊張したまま教卓のほうを向いていた。





「おはよう！っはは、みんな、緊張してるね？自己紹介からするから、大丈夫だよ」

なんて、みんなの前で大きなモーションと共に説明するのは伊東歌詞太郎先生。


このクラスの担任だ。




さっきから後ろの方で、女の子たちがひそひそと話している。

「天月くんに歌詞先生って、
このクラス、ラッキーすぎない？」

「やばい、授業集中出来ないよ〜」

「今年はほんとに楽しくなりそう！」


…………私も少しなら、知ってる。

天宮くんには半ば学校公式となったファンクラブが存在する。有名軽音部のボーカルさんとなれば、そりゃあモテるわけで。

実際、彼は本当に人当たりも良くて格好いいから、男子からも女子からも人気は絶大だ。


歌詞先生は学校一のイケメンと噂される先生。…ちなみに教科は国語。

教え方も上手く面白いから、大っぴらにならないまでも、告白した生徒や先生の噂が後を立たない。

正直、先生自身は、和歌や小説に目をキラキラさせているところしか見たことないけど。




…その2人が揃ったわけで、上記のような女の子たちの囁きと同じことを、私も他のクラスメートも思っているはずで。


まあ、歌詞先生は立場上のこともあって、単純に慕っているって人も多いし。


……とりあえずは、あの「天月くん」と同じ場にいることに、みんな嬉しさを隠せないみたいだった。



「えーと、じゃ、自己紹介簡単にしてってもらうね！素直に1番さんから」





そう、まずは天宮くんや歌詞先生より、なにより友達だ。
名前頑張って覚えよう、
そう決めて、席に座りなおす。



「初めまして！元1-Bの天宮翔太です。軽音部で歌ってます、…えと、…好きな教科は音楽と体育。苦手な教科は国数英、……理科。社会。美術、……んんん」



くすくすと笑いが起きる。
いつものLIVEのMCの声が苦手教科を延々と語っているのが、新鮮で面白いんだろう。



「はいはい天宮くんは紹介する必要ないね！そして国語苦手なら毎日居残らせてもいいけど、」


「あーー歌詞先生、それ酷い」
「はい、じゃあ次、2番さん」


苦笑して、かたんと椅子に座った天宮くん。


私もくすくす笑いながら、次の人へ向きなおった。

3＊キミの声が→←1＊はじまり

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す