違和感 br⇔sh ページ42
シャークんside
※「何度目の恋だろう」の後日談
ひとつ、気づいたことがある。
「__っ、ぁ...!」
初めて身体を繋げた夜。
鈍い痛みと、火傷してしまいそうな程の熱に呑まれながら、必死に彼にしがみついた夜。
どちらのものとも分からない汗が肌の上で交じりあっては、白いシーツに吸い込まれて。
息を吐こうとする度に引き攣ったような声が出た。
滲んだ視界で見つけた顔が、酷く寂しそうだった。
...まるで何かに縋り付くみたいな、そんな表情だった。
___あぁ、まただ。と。
そんな風に、違和感を覚えるようになったのはいつだっただろう。
呼ばれた筈の名前が、まるで違う誰かを呼んでいるかのように聞こえることがある。
向けられている筈の瞳が、まるで違う誰かを見ているように感じることがある。
まるで「俺じゃない誰か」を俺に重ねているように感じることが、ある。
「ふ、っぁ...ん、ぅ...!」
夜が嫌いだ。
その違和感をありありと感じてしまうから。
確かに触れられている筈の手が、俺でない誰かに触れているようで。
確かに見つめられている筈の瞳に映っているのが、俺でない誰かのようで。
確かに呼ばれた筈の自分の名前が、全くの別人の名前のようで。
吐き出す熱い息も、愛の言葉も。
全部、俺ではない誰かに、向けられているようで。
愛されている筈だ。
それだけは間違いない筈で。
それでも、違和感が鼻につく。
ねぇ、誰を見てんの。
ねぇ、誰を呼んでるの。
...なぁお前、誰に恋してるの。
そう言おうとしては何度も口を閉ざした。
言ってはいけないような気がした。
気付かないふりでいなければいけない気がした。
そんな筈はないのに。
「...なぁ、broooock。」
「ん?なぁにシャークん。」
その甘い声は俺に向いている。
とろりと溶ける瑠璃色の瞳も、確かな恋の色を載せて「俺」を見ている。
それでも違う。何かが違う。
その瞳に映っているのは俺なのに、俺じゃない。
「...なんでもない。」
ごくり。今日もまた、その違和感を飲み込んで。
火照った身体に追い打ちをかけるようにシーツを被る。
「そのままだと明日辛いよ」なんて言われたけれど、知らないフリで目を閉じた。
___この後、起こることを知っている。
きしり。
小さく、スプリングが音を立てた。
シーツの擦れる音がして、頬に少し冷たい指が触れる。
それから、生きていることを確認するみたいに首筋に指を滑らせて。
彼はひとつ、息を吐く。
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作者名:ローゼ | 作成日時:2021年8月12日 19時